第41話 4月上旬
「大地、授業、先に行くぜ」
「竜二、待って」
変な夢を見た。まだ二人は高校三年になったばっかだった。教室だった風景が一瞬にしてハトポッポ公園に変わっていく。でもそこには竜二はいなくて俺しかいない……そのあとは覚えていない。
一週間ぐらい前に、駅で竜二にそっくりな人を見かけてから、竜二が夢によく出てくるようになった。
あの日、夕方、チャリで駅近のスーパーに行く途中だった。思わず停まって「竜二」って叫んでしまったけど、こんなに人が多かったら、似てる人ぐらいいるかと1人納得してその場をさった。
朝からちょっとテンションが下がる。窓を開ければ、四月のちょっと肌寒い風が部屋に入ってきた。
俺はスーツを着て、鏡を見ながら、髪の毛染めすぎたかなと不安になった。でも最初が肝心だしな、なめられたら嫌だし。みんないい人でありますようにと願いながら俺は自転車を漕いだ。
水城大学の正門には「入学式」と書かれた立看の前で親と一緒に写真を撮ってる新入生がたくさんいる。
お母さんとお父さん、仕事あるから来られなかったけど、あんなに合格喜んでくれてたしな。一応、撮っとくか。俺は他の人の邪魔にならないよう、向かい側の歩道から「入学式」の立看が入るよう、あと大学のマークも入るようにセルフィーを撮った。ちゃんと立看入ったかなと写真を確認すると、スーツを着た男子学生が小さく、映り込んでピースしてる。拡大しても誰か分からない。目をその方向にやるが、その新入生と思われる学生は見当たらない。
俺は入学式会場の体育館を目指し、東京なのに緑溢れるキャンパスを今歩いてる。俺は大学生になったんだ。ようやく実感が湧いてきた。
体育館に着くと学部ごとに分かれて席が用意されていた。来た順に前方、左から詰めていくような雰囲気があったので、俺もそれを見習い、席に着いた。ここで適当に座って、空気読めないやつみたいに思われるのも嫌だった。隣の人に会釈だけし、坦々と話す学長の挨拶を聞いていた。上の空だった。
竜二は今頃何してるんだろ。結局俺は、大学に入学しても竜二の事ばかり考えている。
入学式も終わり、俺は文学部心理学科のオリエンテーションが行われるという講義室に向かい、空いている席に適当に座った。目の前に置かれてある分厚い大きい封筒を開け、中身を確認している時、誰かが俺の真後ろの席に座った。
記憶のどこかで覚えていたシトラス系の匂いがかすかにする。
俺は顔あげた瞬間、後ろから聞こえた。
「大地、やっぱ可愛いな」
あの声。
高校三年生初日から俺を呼ぶあの声。
忘れようとしたけど忘れられないあの声。
大好きな人のあの声。
「竜二!!」
後ろを振り向きながら、今、俺たちの大学生活が始まった。
終わり
保健室で同じクラスの男子に恋をしちゃいけませんか? ミケランジェロじゅん @junjun77
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