第40話 三月下旬
まだ二時か。予定なんてないのに、俺は時計を確認しながら、ベッドに横になり予備校のパンフレットを見ていた。
二月は精神的にやばかったな、流石にあんなに不合格ばっかじゃ、今まで頑張って勉強してきたのに、意味ありませーんって言われてるみたいだったもんな。大輝にも住む世界が違うなんて言われてさ、今でも思い出すと腹が立つわ。しかも水城の受験の日に携帯まで水没さしちまうしよ。携帯ショップのお姉さんが同じ番号を利用できますって何回もっていんのによ、親父が頑なに新しいのにしろって新しい番号にさせられるし。IDとか覚えてねぇから全部一からやり直しだし。そのせいで、みんなと連絡取れなくなっちゃうしさ。あー本当、人生最大にツイてなかったわ〜。
大地、何やってんだろ、今頃。国立受かって、みんなと騒いでんのかな。もう別れてから三ヶ月経つのに、何俺は大地のことばっか考えてんだ。
家の電話が鳴った。
「竜二〜電話よ〜」母さんがリビングルームから叫んでる。もしや大地か! いや、この家の番号知らないから、こないだ資料請求した予備校からかな。リビングに行くとソワソワした母さんから受話器を渡された。
「はい、伊吹竜二です」
「こちら、水城大学入試課の佐藤と申します」
「はぁ」
俺はなんで水城大学が電話してきたのか全く理解できなかった。
「この度、文学部心理学科で追加合格となりましたのでご連絡いたしました」
俺は一体この人は何の冗談を言っているだ。
「え。俺、不合格じゃなかったんすか?」
「本校は、補欠の方も不合格で発表するシステムなんですよ。ちなみに、もう進路先は決まりましたか? もしまだで、本校へ入学する意思がある場合に」
「行きます! 入学します!」俺は佐藤さんが言い切る前に返事をしてしまった。横で母さんも喜んでる。
「それでは速達で合格通知書を送付いたしますので、入学手続きをお願いいたします。不明なことがあれば、試験課までご連絡ください」
「ありがとうございます」
俺は電話を切った瞬間ガッツポーズをとった。
「文学部心理学科、追加合格だってよ」
母さんの悲鳴を初めて聞いたかもしれない。すぐに母さんが親父に泣きながら、携帯で連絡している。勝手に入学しますって決めちゃったけど、いいよな。父さんときちんと話して、経営学部の他に、文学部心理学科も受験するのを許してもらってたし。
大地に連絡しなきゃ。でも俺から連絡しても良いのかって大地の連絡先わかんねぇんだった。でも、もし、大地が地元の国立落ちて、水城に合格して上京してたら、武蔵ノ水駅にいるんじゃないか。会えるんじゃないか。俺はいてもたってもいられなかった。
「竜二、どこ行くの?」
武蔵ノ水とだけ俺は母さんに伝えて、すぐに家を出てエレベーターに乗り、駅へ向かい、武蔵ノ水駅を目指した。一縷の望みを持って。
俺は大地に今すぐ会いたい。大地に会って、今すぐにでも抱きしめたい。俺はこんなにも大地が好きなんだ。電車の中で一人、引っ越してからずっと大地に会えなかった想いが溢れ出た。
俺は武蔵ノ水駅について水城大学まで走った。キャンパス内を探したけど、まだ入学していないからもちろん大地はいなかった。もしかしたら寮に入ってるかも、と近くにある寮の前で一時間待ったが、大地は出てこなかった。もしかしたら、どっか買い物に行ってるのかと思い、改札が見える駅のカフェに向かった。改札が見える窓際のカウンターでミルクティーを飲みながら待つことにした。電車が着いて、改札から人が出てくるたび、俺は鼓動が早くなった。それでも大地は現れなかった。辺りが暗くなり始め、時計を確認するともう六時を回っていた。
俺は諦め、もうだいぶ前に飲み終えた二杯のミルクティーのマグカップを返却口へと返して、カフェを後にした。
「竜二!」
改札を通る瞬間、誰かに呼ばれた気がした。すぐに振り向いたが、帰宅ラッシュの波に押されて改札内から少し離れたところで振り向いた。
「竜二、待ちなさい」って女性が叫びながら子供を追いかけている。これかだったのかと納得しながら俺はマンションへと帰宅した。
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