第39話 3月中旬
初めて、これが一人暮らしをなのかと実感した。東京の夜なのに、誰の声も聞こえない。ただ、今日は、隣の住人が何度もドアを開け閉めしているのが聞こえた。竜二は東京のどこに住んでるんだろう。俺はTWINでメンバーがいませんと表示されてるアカウントを開いてチャットを眺め返して、布団の中で静かに眠りついた。
ピンポーン
誰だろ。もうすっかり朝日は上がり、時計の針は十時を回っていた。俺は寝癖がついたまま、「はい」という寝ぼけ眼な声でドアを開けた。
「じゃーん、おはよ」
向井と玲花がそこには立っていた。
「向井、それに玲花も。おはよ」
俺は「ちょっと待って」と一旦ドアを閉め、急いで布団の横にあったティッシュの塊をすぐゴミ箱に捨てた。
「どうぞ」
「お邪魔します」
二人は狭い玄関にキチンと靴を並べて上がった。まあまあいい部屋じゃんって言いながら、向井は俺の1Rの部屋をジロジロと見渡している。
「お前も大人になったんだな」と玲花にバレないように向井がゴミ箱を指で差しながら嬉しそうに言ってきた。
「全然綺麗じゃん、ちょっとあたしの部屋よりかは狭いけど」玲花が東京にきてすぐマウントを取るようになった。
「で、何しに来たんだよ?」
「何しにって、今日はみんなでお前の部屋を完成させようってなったんだろ?」
そうだった。今日はこないだオンラインで買ったベッドに、テレビ台に、タンスが届くんだった。自分で作んなくちゃいけないから向井に手伝ってもらうように頼んだんだった。
「まだ届いてないんだよね」
俺はみんなが座れるよう、布団を畳んだ。
「でも午前中に配達してもらうようにセッティングしたんだろ?」
「うん」
俺は携帯でメールで来た確認書を見た。そこには確かに【8:00〜12:00】と書かれてあった。
ピンポーン
「お、配達じゃね?」
向井が俺に早く出ろよと目で訴えてきた。
俺はまず鍵穴から確認した。宅配屋じゃない。そこには見たことのない俺と同じぐらいの歳でメガネをかけている男の子が立っていた。俺はドアを開けた。
「あ、おはようございます」
「おはようございます」
一応、丁寧に返事を返した。
「あ、あの、あの、隣に引っ越して、来た、佐々木と申します」明らかに緊張している。
「新井です」
「こ、これ。あの、これからご迷惑をお掛けするかもしれないので、よかったらどうぞ」
丁寧に包まれた小包を渡された。
「ありがとうございます」
「誰々?」向井が男の声だとわかり、出てきた。
「あ、あ、お兄様、ですか?」
「あ、違います。俺はこいつの彼氏です」
向井マジで冗談はやめろよ。
「こいつは俺の彼氏じゃないです。友達です。それにこいつにはちゃんと他に彼氏がいます」
何言ってんだ俺。佐々木さんはより一層慌てだした。
「もしかして四月から大学一年生ですか?」
俺は慌ててる佐々木さんが少しかわいそうに見えて、落ち着かせようと思い質問した。
「はい」
「どこ大?」俺は同じ大学一年生と知り、少しテンションが上がった。
「芦山です」
「俺と一緒じゃん。俺、向井春樹、よろしく」
向井が嬉しそうだ。佐々木さんも嬉しそうだった。
「佐々木夏彦です」
「でもこっからだと結構通学かかるんじゃね?」
「いや、一応電車で一本ですし、都内に比べると安い方なので」
「へーそうなんだ。てかさ、携帯番号教えてよ」
「はい。いいですよ」
佐々木さんが初めて笑顔になった。向井と携帯を交換した佐々木さんは自分の部屋へと戻っていった。
「あんた、木崎泣くよ〜」
玲花が後ろから言ってきた。
「え? 知らなかったけ? 俺、上京するとき、木崎と別れたんだよね」
俺と玲花は驚いた。
「遠距離ってやっぱ寂しいしよ」
「そうだよね」
俺は納得した。
ピンポーン
今日三回目の呼び鈴だ。
「宅配便で〜す」
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