魔女の失敗
九八
魔女の一日
「お師匠様ー、言われた通りのクルガ草とってきましたよー」
いつも通り私が薬の調合をしていたらお使いに出していたバカ弟子が帰って来たようだ。
「あー帰ったかじゃあそのまますりつぶしてこっちの釜の中に入れておくれ」
「はーい」
そう言って弟子のマールは薬草をすりつぶし始めた。
あれさえ入れればこの薬は完成だ。
「ところでお師匠様ー」
「ん?何だい?」
「今作っている薬はどんな薬なのですか?」
「あぁこれかい?これはね、所謂惚れ薬というものさ」
「惚れ薬ですか!?つまり師匠にもやっと春が来たんですね!いやーこれで僕の扱いも少しはましになりますかね?」
何を言っているんだこの馬鹿弟子は。
「いいか?これはさる王家の人間が直々に依頼してきた代物だよ。これさえ作れば向こう一年は遊んで暮らせる金をもらえるんだ、絶対失敗はさせないよ!」
「なんだー師匠用じゃないんですねーなんかがっかり」
私が自分で使うわけないだろうが。恋なんて一銭の価値もない。
「で、クルガ草のすりつぶしは終わったのかい?」
「はい!終わりました!」
「そうかならこの釜に入れてくれ」
弟子にそう指示したら素直にこちらに持ってきてすりつぶした粉末を釜の中に入れた。
ん?何か少し違うような?
「おいバカ弟子、ほんとにクルガ草を持ってきたんだろうな?」
少し嫌な予感がしたので本人に聞いてみた。
「もちろんそうですよ!ほらこれです」
そう言って近くのかごから取り出したのはクルガ草に似たトウシン草だった。
「バカ!こりゃトウシン草じゃないか!」
「え?トウシン草?トウシン草ってことは...」
そう言いながら恐る恐る釜の方向を見てみると今にも爆発しそうなほど中の液体が膨れ上がっていた。
そう何を隠そうトウシン草は一定の熱を加えると爆発するのだ!
「に、逃げろー!」
「うわー!」
ドカーーーーン!
間一髪爆発から逃げることが出来た。
「ふ、ふー危ないところでしたね...」
「ぜーぜー、あ、あぁそうだな」
少しでも遅れていたら今頃この世とおさらばしていたところだった。
しかし、
「わ、私の家がー!」
愛しのマイホームは見るも無残な瓦礫の山になっていた。
「はっ!そ、そうだ薬は!?私の惚れ薬は!?」
家はまだいい後でゆっくり作りなおせばいいのだから。
だが薬は?期日は明日の正午までの惚れ薬はどうだろうか?
まぁ爆発の中心地がどこかを考えれば結果は目に見えているが...
「師匠ー!こっちに釜がありましたよー!」
「ほ、本当か!」
一縷の望みにかけて急いで弟子の声がするほうへかけていくと、
「はい!見事に爆散していますけど...」
案の定だった。そこにはもはや釜の原形すらとどめていない鉄の塊が転がっているだけだった。惚れ薬は一滴残らず蒸発したらしい。
「あのー師匠?これ今から作って期日に間に合います?」
「・・・す」
「へ?なんて言いました?」
「絶対に間に合わす!このままみすみす大金を見逃せるか!ほら!バカ弟子!お前は今から材料をとって来い!」
「えー!今からですか!?」
「当たり前だ!今から死ぬ気で完成させるぞ!」
そしてバカ弟子と寝ずに作業し期限ぎりぎりで薬を完成させたのだった。
魔女の失敗 九八 @tukisirosiro
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