第7話 受け継がれるもの

僕の実家の話です。

うちは代々、農業、稲作をやっていて、田舎の小さな村の中では1番の収穫高、地元では豪農と呼ばれてました。

うちの水田は不思議な水田で、他の家々が不作の時でも毎年変わることなく豊作で、村の連中は皆、不思議がっていました。一度、近くの大学の農学部が調査に来たりもしましたが、水質や土壌に特別なものはなく、学生も首を傾げていました。

そんな経緯もあり、うちの水田の豊作は土地神やパワースポットのような神秘性のある理由で語られるようになっていました。僕自身は兄もいるので、家業を継ぐつもりはなく、あまり興味も持つことはなく、変なこともあるものだなと他人事のように思っていました。

ちょうど、5年ほど前のことです。僕は大学の進学を決めて、関西の方に住んでおり、実家から連絡がありました。

水田を売ることにしたと。

突然のことで、よくよく話を聞くと、国が高速道路を竣工するとのことで、うちの田んぼがそのルート上にあると。これから農業を続けるよりもその際、国から支給される資金を受け取った方が断然お得だということでした。兄も、その資金を使って、別の土地に水田を拓くつもりだと乗り気でした。僕自身も良い話だと思ったので、賛成しました。その年の年末に帰省した際はいつにもまして豪勢な食事だったのを覚えています。

ですが、幸せな時間は突如崩れ落ちました。

それから数ヶ月後、水田を埋め立てる工事が開始されたのですが、その時、水田から人骨が出てきたのです。それも、数十もの数が。正式な計上だと32体の人骨でした。

家族は皆、狼狽し、工事の方も一度ストップし、人骨は警察の鑑定に回されました。専門機関の鑑定によるとその人骨は江戸より以前のもので、現代のものではないとの見立てでした。家族は胸を撫で下ろしましたが、問題はそこで終わりませんでした。

その人骨、計32体すべての頭蓋骨に陥没、ひびがあり、何者かにより頭部を殴打され、殺害された人骨であると判明したのです。

うちの水田は神秘性のあるパワースポットから一転し、悍しい忌み場へと成り代わりました。

とは言え、公共事業が中止になることはなく、工事は有耶無耶のままに進み、うちの水田は潰れ、高速道路は走り、我が家は莫大な資産を手に入れることになりました。

しかし、父と兄はそのままでは気が済まなかったのか、うちの水田と、その人骨の山に関して調査を開始しました。地元の民藝館、地方に関する文献、実家の蔵などを組まなく調査し、そうして、ある事実を突き止めました。

民藝館に所蔵された風土史に、何代もの家系を遡った時代、村はうちの家系を除き、すべての家系が途絶えた記述があったのです。現在、住んでいる他の住民はそれ以後移り住んできた人達の家系だということでした。

さらに、うちの倉から風化した紙束が発見され、そこには掠れながらも確かに「人柱」という文字が書かれていました。紙にはところどころ、飢饉だの豊作だのと書かれてましたが、完全に読み下すことは出来ず、そこからは推測の範疇となりました。

概ねの推測はこうです。

度重なる飢饉に苦しんだ先祖は、「人柱」、ええ、生贄ですね。生贄によって豊作を祈願しようと考えた。自分たち以外の住民を皆殺しにし、その遺体を田に埋めた。そうして何食わぬ顔でその恩恵を受けてきたと、つまりはそういう訳です。

遠い過去のことなので、正しいことはわかりませんが、まあ、要するに僕の先祖は大量殺人者ということです。我が身可愛さで村一つを殺戮せしめた稀代の悪人です。

その推測にたどり着いた父も兄も、気を患って病に臥せってしまいました。善人なんですよ、彼等は。自分たちの血筋が大勢の死によって成り立っているという事実を受け入れられなかったんです。

僕ですか?

ははは。不思議なことに、なんともないんですよ。何代もの前の悪行で気に病むなんてことは、僕には出来ません。と言うよりも、僕は先祖が間違っているとは思えないんですよ。

仕方ないじゃないですか。

自分達が飢えるんですよ。

多分ですが、僕も同じことをしたと思います。

受け継がれているんですかね、こういう悪性も。この身体に脈々と流れているんです。この話もあくまで仮説ですけど、僕は事実だと思います。祖先の僕がこんな風に感じていることが何よりの証拠ですよ。あはは。

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令和百物語 寺田 @soegi-soetarou

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