3-4

「やっと来る事ができたよ」

 僕は墓跡の前で呟いた。やっと墓参りができる。やっと君に顔向けができる。

「結局のところさ、君は君のままだったんだよ。そりゃあ、君は完璧だったさ。イケメンだし、高身長だし、学もあるし、運動神経も抜群。誰が見ても『完璧』だった。そこにさ、僕は羨ましさを一度も感じなかった。それはね、一種の諦めだったんだと思う。僕にはそんなもの、重荷にしかならないんだよ。僕はさ、君の約束を守ろうとした。ギャッツビーになろうとした。それが君への贖罪になると。でもね、気づいたんだ。僕は友情なんかで君の願いを聞いていたわけじゃないんだ。結局のところそれは僕の自己満足の世界だったんだよ。僕は君よりも優雅に踊ることはできない。君の元カノに言われたよ。僕はニックですらないってね。僕は君にOld sportと呼ばれる筋合いすらないんだよ。でもね、君もまた僕をOld sportと呼ぶ資格はないのさ。だって君は君、宇野昴なんだから。君はジェイ・ギャッツビーではないんだよ。僕がニックですらないようにね。僕らはきっと誰かのエキストラに過ぎないんだ。完璧な君ですらね。物語の登場人物になることすら烏滸がましいんだ。そうやって生きていかなきゃいけなかったんだ。何かを望んじゃいけない。それが君に伝えたかったことさ。君はね、完全であろうとしたためにどうしよもないぐらい不完全だった。でも、そうじゃないと、人間臭くないだろう。僕はそっちの方が好きだ」

 返事はない。後ろの方で、が待っている。そこまで長く話せない。

「僕は、君の約束を守れそうにないや。今のところ誰かに殺される予定もないし、自らで命を絶つ予定もない。僕は僕なりの答えを見つけたからね。それは、別に大層なものじゃない。いつ無くなってもおかしくない。でも、いいんだ。そんな不確かさ人間らしいから。エキストラの僕にぴったりだからさ」

 僕はそこまで言って彼女の方を見る。彼女は僕がそちらを見ていることに気づいて手を振ってきた。僕も笑顔で振り返す。

「それじゃあ、そろそろ行かないと。次はいつ来るだろう。分からない。だからさ、僕なりの答えを君に伝えて帰ることにするよ」


−僕たちの間には、ギャッツビーはもういない、いいや、ギャッツビーはもうんだ


 僕の本棚には今も『華麗なるギャッツビー』が置いてある。でも、僕は読むことはないだろう。それは僕にとって不要なものなのだから。

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Gatsbyはもういない θ(しーた) @Sougekki

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