24.最終話
美咲には指導者から連絡した。
「未奈はこれから歌手を目指していきます。どうか彼女と再会できるようにしてやってください」
と書かれていた。
「そうですか。わかりました」
美咲は苦悩する。まだ姉妹で会うことはできないのかと。
平凡で双子の姉妹なかよく暮らすことはできないものなのか。
グランドピアノの前でうなだれる美咲。
彼にはシャンパンが送られた。
とてもうれしそうにしていた。いままで隠れて練習していたが、このコンクールで認められたのだからもうこそこそと練習することもなくなった。新人の彼が第二位だった事で上層部にも変化が起こったようだ。彼に対するトゲトゲしい目線がなくなったのだ。特に顕著だったのは彼女の父親だ。
進くんだったね。よくここまで練習したものだ。
「はい。親父もバイオリンを習っていたもので。小さいころから触っていたんです」
「かなやま……」
「お忘れとは残念です。父はあなたと同年に学校に入ったと聞いています」
「すまない。あまり関わりは」
「なかったとは言わせません。いろいろあったそうですね。今さら逢うこともないと父は会場に来ていません」
多くを言わない彼の言葉から察せられることは少ない。きっと親子の間で納得しているのならば関係のない者が質問して傷を広げるのは野暮だろう。
「そうか。いまさら弁解しても無駄だな。出来ることならばすまなかったと彼に伝えてほしい」
頭を下げたのは数秒だった。いや、頭を下げたというよりもお辞儀をしたという方が正しいだろう。そして彼女の父親はすぐに踵を返してしまった。
「うちの練習室は自由に使ってくれ」
彼はやっと自由な空間を手に入れたのだった。
「堂々とうちにとまれるなんて幸せ者ですね」
「そーですね。おじょーさま」
これと彼女はまた紙の束を渡した。
「これ本番前に書いてみた。あんまり出来はよくないけど」
次第に彼女と彼の評価は逆転になる。
彼女は小説に生きる、そして彼は音楽に生きる。
彼と彼女の実力の結晶とは、
彼女が作詞をして、彼がリズムをつける。
ただし彼らは恋愛関係には発展しなかった。彼の方は多少感情はあったのかもしれない。しかし彼女はきっぱりとしていた。
雑誌やテレビのインタビューにおいて恋愛系の質問はわりと多かった。其の質問すべてに彼はあり得ない。文章が好きだから彼と一緒にいるのであって彼を恋愛対象にしたら自分は生涯を終えるだろうと。
曲を作ることだった。二人はあるテレビ番組に出てきた時にこのように語った。
本当に半分は言い合いなんです。リズムが違うだの歌詞の意味が分からないだの」
「くだらないことばかり言っていますよね
でもそれが俺らですから
脱・スランプ
やっと書きたいと思えるようになってきたまだ縦の文字を見続けることはつらい
でもキーを叩けることが嬉しくてたまらない。
戻ってきた集中力楽しくてたまらない
御帰り私の世界。
あらゆる作詞家、作曲家、さらにはダンサーを魅了した作品はCDとなり、人気の音源になり、世界中に発信されている。
いまなお、CD店の片隅に置かれているミリオンセラーとなっているのです。
END
書けなくなった勝負事 完 朝香るか @kouhi-sairin
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