新しいものが好きな私

駅に着くと背中を丸めて座っている、君がいた。



「待ちました?」


「待ちくたびれて二つも開けた、飲む?」



意地悪そうな顔で缶ビールを差し出す。



「うぇ、ぬるい」



高円寺駅の人が行き交う改札で、私たちに冷たい目線をおくる人たちを忘れるほど、暖かくなった缶ビールは忘れられない。


行き先を決めるわけでもなく、自然と君の家に歩き出した。


線路沿いを歩き路地に入ったところに家。


街灯がいくつかあったけど、まばらな街頭が薄暗く、ホラー映画を見た後だと、確実に一人では帰れないと感じさせるほどだった。



「家に水しかないよ、なんか買っていく?」


本当に冷蔵庫の中には水とお酒しかないような人。


「お腹はあまり空いてないから、飲み物だけ」


「嘘つきだね」



視線を私から腹に移し、少し赤らんだ頬にしわを幾つか書きたしながらいった。


足音の絶えた町では、それはいつもより大きく辺りに響く。


「・・・」


「なんか、買っていく?」


悪事を閃めいた少年の瞳で、意地悪な質問だった。


「・・・飲み物だけで大丈夫です。」



恥ずかしくてたまらなくて、穴があったら確実に入っていた。



「そっか、何食べたい?」


「ねぇ、人の話聞いてました?」


「もちろん、お腹空きましたって」


「ばか。笑」



恥かしさのあまり俯いている私を笑顔にさせてくれる。



「選んで」


「私は、食べないですからね・・・・。」


「はいはい笑」



嬉しそうにこちらを見て話す君で、満たされた。


少し離れたコンビニで新商品の、お酒とお弁当を買った。


家に向かう途中閑散とした商店街。



「高円寺の看板っていいよね、色褪せている感じとか字体が」



看板なんてなんとなくしか見た事のない私には、その言葉の意味がわからないかった。


「ふーん、私は綺麗で見やすい方が好きだけどな、取り残されている感じするし」


「そうゆうものなのかな」


「そうでしょ、みんな新しいもの好きじゃん」



色褪せた街並みに溶け込んだ。



「そうゆうもんか。」



まばらな外灯の光では、表情はわからなかったけれど嫌な予感がした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

明日、全てが終わるとして まる @maru_1013

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ