恋と雨音、きみ想う。

@rizu1021

第1話枝垂れ桜

季節は、春の真っ只中だった。


公園の大通りには、桜の木がいくつも立っていて、歩いても歩いても一つの絵のように目に飛び込んできて気持ちが良い。


心が、揺れる。

桜はまるで、人生そのもののようだ。


桜は春になると花を咲かせ、一枚の世界を造りあげる。

淡い恋色のピンクが、せわしない心を落ち着かせてくれる。


桜は、恋のはじまりを教えてくれているのかもしれない。


いい香りがする。春の匂いだ。

そんな春の匂いに誘われ辿り着いたのは、小さな池。


教えてくれたのかもしれない。

そこには、一人の女性が立っていた。


華やかな黒髪を肩までおろし、可愛らしい花柄のワンピースを身にまとった女性だった。


僕は一瞬立ちくらみがした。


なんて美しいんだ…………。


それしか浮かばなかった。

彼女は、本当に可愛い女の子だ。


僕には分かる。


その女性からは、甘くてとても優しい匂いがしたんだ。


近づきたい……。でも、何故か……どうしてか今すごく、切ない気持ちだ。

少し触れただけですぐ溶けてしまいそうなほど、白い肌をしていた。


澄んだ瞳に、桜色の唇。

どんな子なのか気になって仕方がなかった。


ふいに、春の風が二人の髪を揺らし彼女が被っていたリボンの帽子が空を舞った。

僕は慌ててその帽子を追いかけ、そのまま草の壁に突っ込んでしまった。


頭に枝やら葉やらを被りながら体を起こすと

手にはしっかりと帽子があった。


「大丈夫ですか……?」


びっくりして振り返ると、さっきの女性が心配そうに僕を見つめていた。

しばらく思考停止中だったが、次第に中から熱いものが込み上げてくるのを感じた。


「す、すみません!帽子……あぁ!」


僕は何をやっているんだ!知らない男が女性の私物なんて触っちゃ駄目だろう!


「ぼ、帽子!お返しします……!」


緊張で目も合わせられない。

不思議そうに受け取る彼女の手は、まるで雪のように白くて美しかった。


背の後ろには鮮やかな桜の木が立っていて、その背景と重なる彼女は女神のように華やかだった。


これほどにも桜が似合う女性は他にいないいう確信が生まれていた。


その確信から姿に見惚れていると、女性が口を開いた。


「お怪我はないですか?」


突然の質問に、僕は焦りを全面的に表しながら応える。準備が出来ていなかった。


「ぜ、全然!平気ですよ……!それより、帽子が汚れなくて良かったですね……!」


所々突っ込んだ時の痛みは残っているが、帽子が無事だったんだからそれで良かった。


すると、彼女は僕の顔を見てくすくすと笑い出した。


「ど、どうしたんですか……?」


もしかして、どこかおかしいところでもあるのか……!?そうだったら恥ずかしすぎる!


「ごめんなさい。せっかくのお洋服が葉っぱだらけで」


あ!これは……。

こんな姿で僕は彼女と話していたのか。


「だから……休憩ついでに、あちらのベンチでお話しませんか?」

「え……?」


それって……ど、どういうこと…………?

ベンチで、お、お話………!?


僕は予想外すぎる展開と、その言葉の理解にしばらく苦しむのだった。





















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