第117話 おまけ(1)突然内科当直をすることに

 九田記念病院では、初期研修医、後期研修医は基本的にER当直をすることになっていた。初期研修医、後期研修医がたくさんいるときは、6年目から各科の当直をすることが多いのだが、ERの後期研修医に休日の半日当直制度を作ったりしたので、内科の後期研修医は6年目以降もER当直を中心にすることが多かった。時に内科当直医が足りないときに、内科当直、となることになった。


 引っ越し前の病院時代だったので、たぶん私が4年次(後期研修医2年目)くらいだったと記憶している。その日の内科当直は前半が鷹山先生だった。ERで仕事をしていると、プライベートの携帯に、院内で内科当直をしているはずの鷹山先生から電話がかかってきた。院内PHSを使えばいいのに、どうしたんだろう??

 「保谷です。先生、どうされましたか?」

 「あぁ、ほーちゃん。申し訳ないけど、今から内科当直を代行してくれないか?」

 「はい、構わないですけど、鷹山先生、どうされたのですか??」

 「今、院内のエレベーターに閉じ込められた!」

 と予想もしていなかったことが起きた。院内のエレベーターに乗って移動中、突然エレベーターが止まり、電気も消えてしまい、閉じ込められて身動きが取れないとのことだった。電波が弱いせいか、院内PHSがつながらず、プライベートの携帯で連絡された、とのこと。


 大急ぎで、外来、各病棟に事情を伝え、鷹山先生が救助されるまでは、保谷が内科当直を代行するので、こちらにcallしてください、と連絡した。


 事務部は閉じ込め事件を把握しており、数時間のうちに、修理に向かう、とメーカーから連絡をもらったそうである。「数時間」鷹山先生は真っ暗な中で過ごすことになってしまった。


 少し患者さんが途切れていたので、最寄りの階に向かい、エレベーターのドア越しに話をする。

 「先生、大丈夫ですか?」

 「いや、中は真っ暗やから、よく分からへん。まぁ、エレベーターの会社の人が来るまでこのままでいないとしょうがないけど、もうすぐお昼やし、おなかすいた。トイレにも行きたい」

 とのこと。


 内科当直として、緊急の呼び出しはなかったが、鷹山先生が解放されたのは、それから4時間ほど経ってから。解放されたら、すぐ後半の先生と引継ぎである。


 「いきなりエレベーターが止まって、本当に参ったよ。昼食も食べられないし、トイレにも行けないし。ERにほーちゃんがいて助かったよ。ERのリーダーが外科とか、整形外科の先生だったらどうしようもなかったからね」


 とお話しされていた。まさか職場でエレベーターに閉じ込められるとは夢にも思っていなかっただろうと思う。私も、よほどのことがなければ、階段を使おうと思った。

 

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