第115話 うまいやり方だ。
そんなわけで、6年間お世話になった九田記念病院から卒業し、新たな職場へ踏み出すこととなった。もちろん前述の通り、月に3回、訪問診療のために九田記念病院に通い続けるのだが、たくさんの経験をさせてもらった病院を離れるのは寂しいものがあった。本棚にしまってあったたくさんの教科書を箱詰めし、診療所に送り、たまっていた書類も処分した。一応名札は、今後も訪問診療の時に使うので自分の作成依頼文書入れにしまい、片付けも終えた。最後に退職金の話になった。一応6年間常勤で在籍したので、退職金も出たのだが、グループの退職金規定には
「自己都合での退職の場合は、算定された金額の6割を支給する」
という規定があり、
「あら、残念」
と思ったことを記憶している。また、給与体系も、基本給は他職種と同じ金額で、そこに職種手当として、医師としての加算が乗り、当直手当等もあくまで手当であったので、退職金を満額もらっても、基本給が低いのでそれほどたくさんもらえるわけではない。さらに自己都合退職なのでその6割と減額されるので、もしかしたら、大企業に新人として入職し、6年間勤務した後に退職した方の退職金の方が多いのかもしれないなぁ、と思った。
あらかじめ、規定に『自己都合での退職は6割』と決めているのは経営側としてはうまいやり方だ、と思った。おそらくグループの最初の病院を設立した時点で、就業規則をそのようにしていたのだろう。途中でそのような規定を導入することは、従業員への不利益変更となり、労働者側の賛成がなければ成立しないことである。
診療所では、不本意ながら理事という立場になってしまっていたので、ある種経営側に属していたのだが、
「自己都合退職の場合は満額の退職金の6割に減額」
という規定がなかったので、経験のある職員が退職されると、その方の積み重ねてきた経験知が失われるだけでなく、金銭的にも大きなダメージとなるので、そのたびに、九田記念病院の規定を思い出していた。
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