第113話 主治医が変わると、何かが起こる。

 これは全くの経験則なのだが、状態が安定している患者さんでも、主治医が変わると、全く同じ治療をしているにもかかわらず、何故か、患者さんの状態が悪くなることが多い。


 先輩や同輩、時には後輩が九田記念病院を卒業するときに、外来患者さんや入院患者さんを引き継ぐのだが、何故か、主治医が変わった途端に重症化したり、困ったことが起こることが多いように思う。


 総合内科では鷹山先生とチームを組んでおり、私の退職前になるだけ私の入院患者を減らし、残った数人を鷹山先生にお願いした。残った患者さんの中には、九田記念病院の事務スタッフのおばあさんがおられた。この2年ほど、肺炎など感染症を繰り返し、そのたびごとに、私が入院管理を行なっていた。患者さんも高齢となり、徐々に衰弱して来られてきた。私が担当し始めたころは、移動は車いすだが、ご自身で立って椅子やトイレに移動することができていたのだが、このころには、それも難しくなり、ほぼ寝たきりとなっていた。2週間ほど前に、発熱で入院。腹部CTで気腫性膀胱炎を認め、同部位が熱源と診断した。気腫性腎盂腎炎、気腫性胆嚢炎などは外科的切除が第一選択なのだが、気腫性膀胱炎については抗生剤治療が第一選択となっている。なので、CTRXで加療を行ない、発熱も改善、膀胱の気腫も改善してきていた。私の勤務の最終日に患者さんにご挨拶と、今後の治療は同じチームで診察してきた鷹山先生にお願いすることを患者さんに伝え、私は退職した。


 退職した、とは言っても、訪問診療の患者さんについては非常勤で継続してfollowすることになっているので、週に一度は、九田病院に通うことになっていた。退職して2週間後だったか、たまたま医局で鷹山先生とお会いすることがあった。鷹山先生は私の顔を見るなり、

 「ほーちゃんが診ていたあの患者さん、ほーちゃんが退職して2日後に偽膜性腸炎を起こして、一気に全身状態が悪化して、あっという間に亡くなってしまったよ」とのこと。


 何とも切ない報告だった。やはり主治医が変わると、何かが起きるのである。

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