第77話 次郎ちゃんの誕生と育児休暇
太郎ちゃんが無事生まれた後、ERの旧ボス、香田先生から
「保谷、一人目が生まれた後は、しばらく二人目が生まれやすくなるぞ。二人目が欲しかったら、タイミングは今やで」
との言葉をいただいた。それが本当だったのか、たまたまだったのかはわからないが、ありがたいことに、研修医3年目に二人目のbabyちゃんがやってきてくれた。分娩は、太郎ちゃんの分娩を引き受けてくれたN産婦人科にお願いしようと思っていたが、妻がN産婦人科に受診すると、すぐに
「ここで分娩されますか?」
と聞かれたそうだ。太郎ちゃんの時は週数も進んで24週くらいの時に
「ここで分娩されますか?」
と聞かれたので、
「ずいぶん急いで聞くんだなぁ」
と妻は思ったそうだが、
「はい、そのつもりです」
と答えたそうだ。その次の産科健診で受診したところ、
「10月で分娩の取り扱いを終了します」
と張り紙が出ていたとのこと。その当時は、産科にまつわる様々な事件や、医局からの産婦人科医引き上げで、ひどい産科不足状態。「お産難民」という言葉が飛び交うほどであった。次郎ちゃんはギリギリ滑り込みセーフだったようである。妊娠中は、太郎ちゃんの世話と、大きくなってくるおなかで、妻は大変だったようであるが、深刻な妊娠合併症を呈することはなく、順調な経過だった。
ある日、妻から、
「babyちゃんが生まれるとき、1か月間育児休暇を取ってほしい」
と言われた。義母は病気を抱えていて、あまり無理をさせることはできない。私の両親は遠方に住んでおり、また、妻との相性も良くないので、私の母に助けてもらうこともできない。なので、分娩、分娩後の体力の弱っている時期をサポートするのは私しかいないのである。
早速師匠に相談。予定日が10月上旬だったので、10月の1か月間、育児休暇を取らせてくださいとお願いした。師匠は私の肩をつかんでこう言われた。
「ほーちゃん、それは絶対に休め!(でないと)一生言われるぞ!」
と。ということで、10月の1か月間、お休みをいただくことができた。とはいえ、完全に休みにすることもできないので、水曜日の午前診、金曜日の訪問診療は休まず続け、それ以外の業務は休止する、ということになった。
妻は男女平等の立場から、男性の育児休業の先駆けとして、育児休業制度を使ってほしいと考えていたようだが、事務部から、育児休業制度を使うよりも、たまっていた有給休暇を消費する方が、収入が多くなると提案され、結局のところは有給休暇を使うこととなった。
予定日は10月上旬だったので、10月の1か月間を休みにしたのだが、なかなかbabyちゃんが生まれてこない。親子3人の時間がたくさんできたので、太郎ちゃんを連れて3人でお出かけしたりした。だんだん、休業期間が足りるかどうか不安になってきた10月の中頃、寝るときは普通に
「お休み」
と言って入眠。ちょうど眠りが深い0時過ぎに、妻から大声で起こされた。こちらは熟睡していたので何がなんだか訳がわからず、
「う~ん、何?」
と聞いた。妻からは
「何を寝ぼけているのよ!産気づいたから今から病院に行こうと思って。太郎ちゃんが起きないようにそっと起こしていたのに!全然起きないから、大声を出して、太郎ちゃんも起きちゃったじゃない!」
とずいぶん怒られた。タクシーを呼び、用意していた入院セットを持って、産科に向かうことになった。その当時、6階の部屋に住んでいたのだが、玄関先から見ているとタクシーがやってきた。
「タクシーが来たよ。急がなきゃ」
とつい妻に行ってしまったのだが、
「産気づいてしんどいのに、そんなにすぐ動けるわけないやろ!」
と、また怒られてしまった。このあたりのやり取りは今でもぶり返して怒られてしまう。何とか妻はタクシーのところに辿り着き、産院に向かっていった。太郎ちゃんの時は付き添うことができたのだが、分娩室には原則1人しか入ることができず、太郎ちゃんを抱えて分娩室に入ることができないので、私は太郎ちゃんとお留守番。妻は一人でお産に挑むことになった。太郎ちゃんはまた入眠し、私も入眠してしまった午前3時ころ、産院から連絡があり、無事に男の子が生まれた、とのことだった。とりあえず、明朝までは動けないので、そのままもう一度入眠した。
翌朝、太郎ちゃんと二人で産院に向かった。生まれたばかりの次郎ちゃんは、また太郎ちゃんとは違った顔つきで、小さくて壊れそうだった。
「ああ、この感覚は太郎ちゃんの時以来だなぁ」
と思ったことを覚えている。その後の育休生活がどんなものだったのか、ほとんど記憶に残っていないが、太郎ちゃんの時より、妻の身体のダメージは大きかったようで、床についていたのが少し多かったように記憶している。
次郎ちゃんが生まれた後のことはあまり記憶には残っていないのだが、それはさておき、家事や子供たちの世話をしながら、育休生活を送ったのは確かである。
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