第74話 石井先生もミスをすることがある。

 とある日のER引き継ぎ、私が一番にERに到着したので、ボスの石井先生から引継ぎを受けた。

 「今、点滴中の人が点滴室におるんや。『呼吸苦』の主訴で来院したんやけど、血液検査、胸部CT、心電図、心エコーとも問題ないねん。『今はしんどくない、落ち着いている』って言うてるから、点滴が終わったら帰宅でええわ」

 とのことだった。


 「わかりました」

 と引き継いで、その日のER当直に入った。その患者さんは点滴終了後帰宅され、その日のERは普段通り、それなりの忙しさで当直が過ぎた。


 当直明け、朝食後回診を回っていると院内PHSが鳴りだした。電話をとると

 「保谷先生ですか。ERの石井です(石井先生の電話はいつも、最初だけ丁寧)。あんなぁ、保谷、ちょっとER来てくれるか?」

 といつものように呼び出しがかかった。急いでERに降りていくと、昨日点滴後帰宅とした患者さんが気管内挿管され、人工呼吸器にのった状態でERベッドにおられた。

 「今日も呼吸苦を訴えて救急搬送されてきたんやけど、Stridorが強く、息が止まりかけていて、何とか鼻から気管内挿管ができ、気道は確保した。昨日評価できていなかった首のCTを撮ると、気道の高度狭窄があって、どうも魚骨が刺さって感染を起こしたみたいやねん。保谷、よろしく。一応わしの後輩で、頚部の感染症、気道狭窄を専門にしてるやつがおるから、連絡しとくわ」

 とのことだった。頚部のCTを見ると、確かに軟部組織の腫脹は強く、魚骨と思われる高吸収の物質を認めた。患者さんは魚の骨がのどに刺さって、そのままにしておいたので、喉が腫れ、呼吸苦→窒息となったのだろう。前日の呼吸苦も、ここに起因していたのだろう。石井先生にしては珍しいこともあるものである。


 とにかく、気道は確保されているのでひとまずの生命の危機は乗り越えているが、咽頭周囲に腫脹、膿瘍形成が疑われ、縦郭炎への進展が危惧される。起因菌として口腔内常在菌を考え、それらをカバーするためにABPC/SBT 1.5g×4回/日を開始、呼吸管理はTチューブ、SpO2 28%で管理し、酸素化は良好だった。

 こちらからもその先生に連絡し、

 「石井先生から聞いています。ベッドを用意するので、数日待ってください」

 とのことだった。患者さんの治療を継続したが、問題の魚骨を抜いて、膿瘍を排膿しないと状態は改善しない。その数日後、先生から連絡があり、

 「明日の10:30にこちら(急性期疾患医療センター)に来てください」

 と連絡を受けた。


 私が院内の救急車に同乗し、急性期疾患医療センターに患者さんを搬送。ERにつくと、優しそうなERボスが迎えてくれた。

 「重症の患者さんの管理、大変でしたね。お疲れさまでした」

 と先生はおっしゃられた。同院のERでは、スタッフDr.や研修医と思われるDr.も楽しくのびのび仕事をしている印象だった。う~ん、ボスのキャラクターでこうもERの雰囲気が変わるのか、とびっくりしたことを覚えている。ただし、今回は石井先生の力もあって、解決ができた。

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