第64話 落とし穴
総合内科も、しばしば他科からの対診依頼を受けることがある。ある日、私たちのチームに、整形外科から60代の男性、踵骨骨折術後、アルコール好き、喫煙者の方で、前日から出現した左前胸部痛について診察依頼があった。
鷹山先生と私で患者さんの診察に向かう。患者さんにお話を伺うと、前日の昼過ぎから左前胸部のあたりにズキズキするような感じの痛みが出現し、良くならないとのことだった。整形外科の先生が血液検査や心エコー、胸部レントゲン、心電図の指示を出してくださっており、結果を確認するが、血液検査は術後の炎症反応の上昇がある程度で、心筋逸脱酵素は陰性。心電図も入院時と変化なく、心エコーもasynergyはなし。心筋梗塞を疑うような所見は認めなかった。狭心症にしても、痛みの持続時間が続きすぎである。胸部レントゲンも肺炎胸膜炎や胸水貯留は認めなかった。
二人で、「何だろう?」と困ってしまい、一旦並診で経過を見ることとした。翌朝の回診時も、痛みは続いている、とのことだったが重篤感はなく、バイタルサインにも変化を認めなかった。
3日目の朝、回診に行くと、痛みの部位に周囲に紅暈を伴う水疱が散在していた。二人して「あ~っ!」と叫んでしまった。胸痛の原因は帯状疱疹だったのだ。整形外科の先生に、
「あの胸痛でコンサルトいただいた方、帯状疱疹でした」
と伝え、バルトレックスを処方した。当初の診察時に、痛みの性質について、もう一歩踏み込んで聞いていたら、あるいは解剖学的に順序だてて考えていたら、鑑別診断に「帯状疱疹」が浮かんでいたのかもしれない。
帯状疱疹でしばしばみられる落とし穴パターンは「シップにかぶれた」と言って受診される、というパターンである。
数日前から肩や腕、側胸部(部位は患者さんによって異なるが)などに痛みを感じ、シップを貼って様子を見ていたら、ブツブツができてきたので
「シップにかぶれました」
と言って受診される方がしばしばおられる。
シップをはがして診察すると、一部破れた水疱が散在しており、よく見ると、シップを貼っていないところにも同様の皮疹ができていることがしばしばであり、
「数日前からびりびりと痛かったのではないですか?シップかぶれではなく『帯状疱疹』という病気ですよ」
と伝え、帯状疱疹について説明、抗ウイルス薬、痛み止めを出してfollowとすることがしばしばだった。
これは、きっちり皮疹を見れば、あまり間違えることはないと思っているのだが、あまり患部を見ることもなく、
「シップにかぶれた→ステロイド軟こう」
とすると困ったことになる。
これも、帯状疱疹の落とし穴である。
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