第21話 呼吸器内科研修へ

 上部消化管内視鏡検査にもずいぶんと慣れ、下部消化管検査も少し光明が見え始めたころに、4か月の消化器内科研修が終了した。次は師匠率いる呼吸器内科研修である。呼吸器内科とはいえ、師匠の守備範囲が広いので、必ずしも呼吸器疾患だけではなく、様々な疾患に対応するのだが、主に呼吸器疾患を中心に対応することになった。

 循環器内科、消化器内科、呼吸器内科のそれぞれの疾患のイメージとしては、循環器内科は、急激に悪くなり、治療介入がうまくいくと比較的速やかに良くなる、というイメージ、消化器内科は慢性の経過をたどる疾患はだんだん悪くなっていく一方で、出血性消化性潰瘍などは、発症も急激だが、治療がうまくいけば1週間程度で退院、という印象だった。呼吸器内科は、あっという間に悪くなり、しかもなかなか良くならない、なかなか重い印象である。


 私は個人的には悪性腫瘍の治療は苦手で、知識量も少ない。苦手な理由はまず第一に、病期分類がややこしくて覚えきれない。病期によって選択される治療法が決定されるが、標準的治療(「標準的」という表現に多くの人が惑わされ、何かさらに特別な、効果的な治療法がある、と考えてしまいがちだと思うが、医師は患者さんに対して、最善の治療を行なうのが当たり前(標準)なので、「標準的」治療とは、その時点で効果、副作用を勘案し、最もよい治療法を指すのである)も、学問の進歩とともにどんどん変化していくので、そのfollowが大変なことなど、どうも自分の性分と合わないのである。


 その一方で、悪性腫瘍末期の患者さんの緩和ケアについては、むしろ自分にとってやりがいを感じる仕事である。そんなこともあり、また研修期間も4か月と短いので、悪性腫瘍の患者さんについては師匠や呼吸器内科の栗原先生の指導の下で、その診断、化学療法についても導入は行ったが、その後の外来followについては、師匠や栗原先生が担当された。そんなわけで、呼吸器内科では、間質性肺炎、過敏性肺臓炎、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、好酸球性肺炎、感染性の肺炎など、特に間質性肺炎とCOPD、感染性の肺炎を扱うことが多かった。気管支喘息についても担当したが、若年の方で喘息で入院する方は少なく、基本的にはぜんそく+COPD(ACOS)の方が多かったように記憶している。担当患者さんも多く、多い時には30人以上の入院患者さんを担当していたこともあった。患者さんの数が増えると、まるで指数関数的に仕事量が増えるのと、患者さんの顔、病名、病態が一致しなくなってくる。あの頃は年齢は30代半ばだったが、25人までは患者さんの名前を聞くと病名、病状がパッと出てきたが、それを超えると覚えきれなくなって、病棟から電話がかかってきても

 「えっ、それ誰?」

と顔、病名、病状が出てこなくなり、自分の担当患者さんかどうかも忘れてしまうようになってしまっていた。今、この文章を書いている時点で、50歳の誕生日が近づいているが、今では15人を超えると

 「えっ、それ誰?僕の患者さん?」

となってしまっている。衰えてきているものである。


 呼吸器内科の検査としては、気管支鏡、気管支鏡下細胞診、気管支鏡下肺生検、気管支鏡下肺胞洗浄、CTガイド下肺生検などを経験した。結核性胸膜炎の診断のために、時に胸膜生検が必要な場合もあるが、それは経験する機会がなかった。呼吸器内科の処置としては、chest tube挿入、気管内挿管と人工呼吸器の設定、NPPVの設定などがあった。時にはICUでがっつり治療を行なわないといけないこともあり、結構ハードな研修だったと思う。しかし、いろいろと勉強になったのも確かである。私が恥ずかしながら「総合内科」の末席を汚すことができているのも、この修行のおかげであると思っている。



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