第8話 循環器内科での心カテ以外の手技

 循環器内科が行う手技は、カテーテルだけに限らない。とはいえ、どの手技も、セルジンガー法で血管確保ができないと手技ができない。そういう点で、師匠が初期研修医に対して習得すべき手技として、セルジンガー法を用いてCV lineを一人で挿入できるようになること、という意味が後期研修を始めて、ようやく理解できた。


 坂谷先生からの必須目標の一つに、「一時的ペースメーカーを挿入すること」が挙げられていた。心筋梗塞に起因して、完全房室ブロックを来したり、時には心筋虚血とは関係なく徐脈頻脈症候群で、緊急にペースメーカーを挿入する必要がある場面に出くわす。


 一時的ペースメーカーを挿入するためには、まず、右内頚静脈にシースを挿入する必要がある。患者さんをカテーテル室に移動し、表在エコーのプローブで、頚部の血管走行を確認し、内頚動脈、内頚静脈を確認する。現在ではエコーで観察しながら中心静脈穿刺を行なうのが標準となっているが、私たちの頃にようやく、CV line挿入にエコーを使うことが始まった。なので、内頚動脈、内頚静脈の位置関係を確認すると、エコーはお役御免となっていた。血管の走行を確認し、内頚静脈の穿刺部位を決定、マーキングし、物品の準備、穿刺部位の消毒、自身のガウン、帽子、マスクの着用、患者さんに覆布をかける。キシロカイン注射液で穿刺部周囲の局所麻酔と、試験穿刺を行ない、どす黒い静脈血が逆流するのを確認し、本穿刺を行なう。透視下でガイドワイヤ挿入用の細いカテーテルを刺入し、逆血を確認し、ガイドワイヤを挿入、ガイドワイヤ挿入部位の皮膚をすこし切開し、シースを挿入。内筒を抜き、逆血の確認と、生理食塩水のフラッシュを行ない、シースが挿入されたことを確認。絹糸でシースを固定する。


 そしてそのシースから、ペースメーカーの電極を挿入する。透視下に電極の先端が心尖部に挿入されるように電極を挿入、抵抗を感じたら挿入を止め、ペースメーカーにつないで電気刺激を開始する。ペースメーカーリズムで心臓が鼓動を始めたら、刺激電圧を落としていく。具体的な数字は忘れたが、ある基準以下で心臓のペーシングができれば、手技終了。基準以上の電圧が必要なら、電極の先端をすこし動かして、同じことを繰り返し、適切な電極位置を探す。そのようにして、一時的ペースメーカーの挿入を行なっていた。


 心筋梗塞に付随して起きた房室ブロックなどは、数日の経過で改善することがしばしばであり、自己脈が出てくればペースメーカーを抜去、心筋梗塞に関連しないようなSSSなどであれば、数日のうちに埋め込み型ペースメーカーの挿入を段取りした。


重症のうっ血性心不全、心筋梗塞などで、ICU管理が必要な人に、Swan-Ganzカテーテル(以下、S-Gカテーテル)を挿入するのも、やはり内頚静脈にシースを挿入するところから始める。ただし、多くの場合、SGカテーテルは透視下では挿入しないので、シースの挿入も非透視下で行なう。シースが挿入されれば、SGカテーテルを挿入する。先端が血管内に入れば、先端のバルンを膨らませ、SGカテーテルについているコードを適切に機械に接続し、先端の圧波形を見ながら、ゆっくりカテーテルを進めていく。頚静脈波を呈していたモニタが、大きな圧変化を呈するようになれば、先端が右房→右室に入ったサイン。さらにゆっくりカテーテルを進めるとまた波形が変わり、肺動脈に入ったことがわかる。それからさらにカテーテルを進めると、大きく波形が変わり、頚静脈波と似たような波形になる。その時の圧が、肺動脈楔入圧、その部位でカテーテルを固定し、バルンを凹ませる。そして、0度に調整した生理食塩水5mlを用意し、カテーテルに一気に注入して、心拍出量、心係数を測定する。


一度は透視下に大腿静脈からSGカテーテルを挿入しているのを見たことがあるが、その時は右房→右室→肺動脈に挿入する際にカテーテルにひねりを加える必要があった。


そのような手技も修業した。

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