第12話 消化器内科での研修

 循環器内科の4か月の研修を終え、次に消化器内科での研修が始まった。消化器内科では、消化管の疾患、肝、胆、膵の疾患を担当していた。


 循環器内科では副主治医として、坂谷先生とつきっきりで仕事をしたが、消化器内科では、主治医として患者さんを担当することになった。それと、上部下部の内視鏡検査のトレーニングも始まった。

 朝は各自担当の患者さんを回診し、内科全体の朝の”sign-in conference”(前日の入院患者さんで、主治医が決まっていない人の振り分けなどを行なう)の後、内視鏡室で午前の最初は上部消化管内視鏡の検査を始め、同時に下部消化管内視鏡の検査を受ける患者さんも朝から来院してもらい、プレパレーションとして洗腸液を飲んでもらっていた。午前の最後あたりから、上部下部同日の内視鏡検査希望の方の検査を行ない、午後から下部内視鏡検査を行なっていた。上部、下部消化管内視鏡の検査終了後、必要な患者さんがおられれば、X線TV室でERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影:Endoscopic Retrograde Cholangio-Pancreatography)/EST(内視鏡的乳頭筋切除術:Endoscopic Sphinctectomy)を行なったり、PTCD(経皮経肝胆道ドレナージ:Percutaneus Transhepatic Cholangio-Drainage)/PTGBD(経皮経肝胆嚢ドレナージ:Percutaneus Transhepatic Gall Bladder Drainage)を行なったりしていた。毎週水曜日の朝7:30からは、外科との合同カンファレンスを行ない、手術適応の方の紹介や、紹介患者さんの術後の報告などを行なっていた。2週に1度は勉強会を行ない、各自が文献や、自身の学会発表の練習など、自分で題材を決めて発表していた。


 循環器では悪性疾患を扱うことは極めてまれであるが、消化器内科では当然検査で発見することが多かった。まだNBI(Narrow Band Imaging)の内視鏡はなく、EMR(内視鏡的粘膜切除術:Endoscopic Mucosal Resection)は行なっていたが、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術:Endoscopic Submucosal Dissection)は内視鏡治療の先端を走るわずかな病院でしか行われていない、まだまだ手技や機械の黎明期であった。なので、早期胃がんでも基本的には外科に紹介、外科的治療を行なっていた。


 担当患者さんで多かったのは、出血性胃潰瘍/出血性十二指腸潰瘍の患者さんで、内視鏡下に止血、絶食でPPI(Proton Pump Inhibitor)の点滴を数日行ない、再度内視鏡で病変部位を確認、再出血のリスクがなさそうであれば食事を再開、PPIも内服に変更し、数日で退院、という方が多かった。貧血の程度と年齢、併存症を勘案し、必要な方には輸血を行なったが、輸血のリスクもあるので、若い元気な方であれば、ある程度貧血がひどくても、バイタルが安定していれば鉄剤の補充で経過を見ることが多かった。

 肝疾患では、非代償期の肝硬変による肝性脳症、あるいは食道静脈瘤破裂でEVL施行後の方が多かった。急性胆嚢炎については、当時は絶食、抗生剤投与で治療をしていた。おそらく今では、初発の急性胆嚢炎発症直後であれば、緊急で腹腔鏡下胆嚢摘出術を行なうことが多いであろう。あるいは一時的にPTGBD、あるいはPTGBAでドレナージを併用し、抗生剤治療を行なうのが一般的なのであろう。高齢者でしばしばみられる総胆管結石→急性胆管炎については、可能なら何らかの形でドレナージ+抗生剤治療を行なっていた。


 肝細胞がんについては、丁度私が消化器内科の研修を始めるころに、肝細胞がんの権威が当院に赴任されたので、診断は消化器内科が行なっていたが、精査、治療については新設された肝臓外科にお願いをしていた。


 このような感じで、消化器内科の研修が始まった。


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