第11話 恩師の近くへ(師匠のフレキシビリティ)
初期研修中は単独での診療行為は禁止されていて、ERでも、必ず上級医の確認をもらって帰宅、ということになっていた。初期研修を終えると、単独での診療行為が可能となり、ERでは初期研修医の診療行為の確認をする側になった。九田記念病院での後期研修の修業を終えた先には、
「君と一緒に臨床の場に立てたらうれしいよ」
と言って下さり、医学生時代の私を応援してくださった恩師であり、子供のころからのかかりつけ医である、上野先生が率いる万米ヶ岡共同診療所で働きたいと思っていた。上野先生も私が診療所に来るのを期待してくださっていて、初期研修が終わると、
「診療所に慣れるためにも、少し夜の当直のバイトなどで応援してくれませんか」
と声をかけてくださった。とてもありがたいことなのだが、当グループは副業禁止、アルバイトなんてとんでもないことだった。こっそり他院のバイトに行ってる人がいるとかいないとか聞いたことはあるが、それでは何かトラブルが起きたときに、当然困ったことになってしまう。
そんないい加減なこともしたくないので、研修委員長でもある師匠に、状況と希望をお話しした。師匠は
「わかりました。では、先方の理事長先生とお話ししたいので、時間を設定してください」
とおっしゃられた。師匠の時間と、上野先生の時間を調整し、診療所の夜診終了後に時間を取ってもらった。
当日は師匠の車に同乗させてもらい、診療所まで案内させていただいた。師匠である狩野先生と恩師である上野先生が名刺交換をした後、師匠から、
「保谷先生は、将来、1次医療機関で地域医療に貢献したいと考えています。私どもの病院は重症患者にも対応できるよう、十分な検査体制の下で救急医療を行なっておりますが、それではどうしても検査に頼りがちになってしまい、一次医療機関で必要とされる身体診察など、検査できない体制での診療を行なう能力は身に付けづらいと考えています。彼の将来を考えると、地域に密着した一次医療機関である貴院で、夜間救急診療などを研修させていただきたく、お願いに来た次第です」
との言葉があった。
師匠は、診療所で仕事をすることを、「地域医療研修」という形で、内科後期研修の一環と扱って下さることを考えておられたのだった。私の将来を考えたプログラム、ということで正式な内科後期研修の一部としてくださった。上野先生も、もちろん師匠の提案に同意され、正式に書類を交わして、隔週木曜日の当直と、月の最終日曜日の日当直、万米ヶ岡共同診療所で医師として当直をすることになった。九田記念病院の仕事開始時間を考え、朝は6:30まで、という形ではあるが、子供の頃からの憧れであった診療所で医師として診察できるようになった。
このようにフレキシブルに対応してくださる師匠の下で修業できるのは本当にありがたい、と改めて思った。
そして、恩師、上野先生の診療所に医師として戻ってこれたことを本当にうれしく思った。
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