24話 おはよう

「────も!─きろ!」

遠くから誰かが何かを言ってくる

「おいこらさっさと起きろ愚弟!」

小豆の怒号が部屋中に響いた後、僕は窒息感に襲われ目を覚ました。

口の中にマシュマロを少しずつ詰められていた


「ングッ…ゴホッゴホッ……死ぬわ!」

「だってなかなか起きないんだもん…」

「だもん、じゃねぇよ!でも起きれた!ありがとよ!」

「そうだよ感謝しな!」

意味のわからないやり取りを続けてたら奏音がジッとこっちを見ていた。

「…私も今度ともくんが起きない時やってみようかな……」


一瞬で血の気が引いた


「ほら、遅刻するからはやく朝ごはんたべよ〜ともが起きないと私も食べられないんだから〜」

「お姉…」

「ん?なぁに?」

「……着替えるからはよ出てけ」


「なんならお姉ちゃんが着替え手伝ってあげるよ」などとふざけたことを言っていたため締め出してやった。


「ともくんが寝坊だなんて…お花見の日思い出すね」

「あんま思い出したくないけどな……」

「あ〜まぁ、そうだよねぇ…でも私はここにいるもん!大丈夫だよ」


お花見の日、奏音が旅立った日、心の深いところに根付いた絶望。

鼓膜を切り裂くブレーキ音

少しずつ冷たくなる身体

最期に見せた笑顔

全部が焼き付いて離れない


乗り越えたとは言えない、それでも時計は進み続けてしまう

「ずっと一緒だよ、ともくん」

「奏音…」

「急にじっと見ないでよ恥ずかしい……」


「奏音、おはよ」

「え……えぇぇ!今更かよぉぉ!」

コロコロと笑う少女の顔は昔と何一つ変わることなく輝いていた。


「ね、ともくん!今度さみんなでお花見しようよ!」

「………僕はパスでいいや…」

「だめ、ともくんは絶対参加。」

どうやら拒否権は失われてしまったようだった。

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kanon 4696(シロクロ) @4696_

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