23話 たしかなこと

「………ッッッかれた……」

声にもならないような声で疲労を吐き出して玄関を抜けて呼吸器いっぱいに自宅の匂いを満たした


「ともくんおっそーーい!……って、なんか目赤い!誰だ!ともくん泣かしたやつは!私が呪ってやる!」

「今のお前なら簡単に出来そうだからやめてくれ。てか、これは僕の自爆だからその…気にすんな」


「ふーん」と素っ気ない態度を取った奏音は毛先をいじりながらモジモジしていた

「ね、ねぇともくん、やりたかったことやっていい?」

「…やりたいこと?」

嫌な予感がする


「おかえりなさい!お風呂にする?ご飯にする?それとも…か・の・ん?」


BINGO!!

このまま順当に答えたら付け上がってめんどくさいことになりそうなので適当に流すことにしよう。

「じゃあ…」

「じゃあ?」

「か…」

「か!?」

「……お洗ってくる」

「…へ?」


「顔洗ってくる。」

ちょっとパリパリするから と言い残して洗面台に向かうと後ろから「あたしじゃねーのかよぉー!」

と叫ばれていたが気にしない


「……ひっでぇ顔」

赤くなった目元、パリパリに乾いた涙の跡、

くしゃくしゃになった前髪

どこからどう見ても泣いた後だと分かってしまう格好をしていた。


「んぁ!ほもひゃ!おふぁえひ!」

(あぁ!ともや!おかえり!)

2階からアイスとカップをもち口にスプーンを加えた姉がのそのそと降りてきた

「姉よ、とりあえずどちらかを置きスプーンを口から出しなさい」

「へきるならひゃっへる!ふぉもがほっへ!」

(できるならやってる!ともがとって!」

「分かったから…はい、あー」

「あー」

「これでいいか?」

「ありがとー!我が弟!実は表情筋が限界近くまで来てたんだよね…あ、そのスプーンこっちのカップに入れたら怒るからね?怒らないけど」

どっちだよ

「てか、とも目元赤いじゃん、なんかあった?」

「まぁ、ちょっとね」


「ともはどこまでも優しいもんね、あんたが泣く理由、お姉ちゃん知ってる。」

「……お陰様でね。」


鏡越しに誰にも見えない少女をしっかりと見据えて僕は口を開く。


「本当に好きなんだなって。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る