第5話

「……ってことがあったんだけどさあ」

「恭介、お前変態か?」

 放課後の教室で中等部からの友達、そしてバンドメンバーの川村朔太郎に相談したところこの言われようだ。酷い奴だ。

「どこが変態なんだよ」

「いや、可愛い女の子狙いでずっとその席にいて話す機会伺ってたってことじゃねえの?最寄り駅までわかるくらいに観察してさ。うわっ、気持ち悪っ。鳥肌立ってきた。ほら見てみろよこれ」

「俺は今まで通りに同じ場所に乗ってたら目の前に可愛い女の子がいただけだ。断じて変態ではない」

「だってさぁお前……明らかにその子のだってわかるもの持ってるんだろ?今」

「そうだけど」

「何でその子のだってわかった?」

「彼女は本を読む時に左手の人差し指と中指で栞を挟む癖があるのを見てたから」

「それがキモいんだよなぁ……」

「何、きょーちゃんがキモいって話?」

 幼馴染の宮野葵が割り込んできた。彼女もバンドメンバーだ。うっかり彼女を名前で呼んだら殺されるのでミヤ。ミヤは公正な判断はするが口が悪い。グッバイ俺の人生。

「きょーちゃんストーカーなの?」

 朔太郎に話を聞いたミヤはバッサリと斬った。

「百歩譲ってその子のだってわかるものだから直接渡した方が良い、というのは認めよう。しかし栞のような小さなものがその子のだってわかるくらいその子を観察しているのは気持ち悪いというか怖いしストーカーみたいだと思わないかい恭介くん」

 改めて言われると確かにそうだ。

「その子見てみたいけど俺銀河の丘線だからなぁ……」

「その子見てみたいけど私チャリだからなぁ……あーあ、引っ越さなければ良かったのに」

「あー、そういえばミヤさん中等部まで鹿戸だったよな」

「そうなのよ。親も仕事通いにくいしって言って引っ越しやがった」


 龍聖学園は中高大の一貫校であり、俺ら3人は中等部から入学している。俺の使う校舎直結の龍聖学園駅の他に、港町線よりも内陸部を走る銀河の丘線の龍山神社前も最寄り駅である。「市街地なのによく星が見える街」三原市を通ることからそう名付けられたらしい。ユーザーの割合は港町線6、銀河の丘線4と言ったところだろうか。朔太郎は銀河の丘線ユーザーだ。

 話し始めたら止まらない2人だから放っておいたらすぐに話が脱線する。話を戻そう。

「結局俺は栞をどうするべきなんだ?普通に返して良いの?」

「直接返しとけー、キモいって思われたらそこまで」

「そうだそうだー!当たって砕け散っとけー!」

 酷い奴らだ。

「まあでも」

 急にミヤが真面目なトーンに落として言った。

「きょーちゃんが恋愛できるようになって良かった」

「恋とかじゃねーよ」

 恋ではない。ただ、毎日見かける彼女に興味を持っただけ。そう言い聞かせながら窓の外を見る。

「海、綺麗だな」

「そうか?いつも通りだろ」


 窓の外に見えた海は、夕陽できらきらと輝いて見えた。

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