花言葉
つる子
花言葉
「花言葉」
真冬の凍てつく風がさっきまで暖房に触れていた頬を容赦なく刺してくる、寒さを中和させようと俺は買った肉まんを一気に口に入れた。
「冬に肉まんとはベタだね〜」
俺の手元を観察するように見ながら一華はおでんのがんもどきを口へ運んだ。
「お前だっておでんじゃあないか」
「おっと、そうだったな」
一華は誤魔化し歩いていった。
すでに日は落ち、道路を走る車のライトやテールランプが眩しい冬の夕方、30歳になった俺らは、高校の同窓会で母校に足を運んでいた。
途中で小腹がすいたのでコンビニに寄り、そこで、当時同じ部活で仲の良かった一人、一華牡丹(いちはな ぼたん)と会った、この名前で男である。
「いや〜、しかし随分と久しぶりだよな?前に会ったのは5年前か?」
「部活の同窓会以来だからそのぐらいか」
「俺らももう三十路か〜、なんだか少しショックだ…」
「三十路って、もっとオブラートに包めよ」
「例えば?」
「アラサー…とか?」
「あんまり変わらないな」
一華が質問し俺が答える、というお互いに5年という歳月を感じながら会話をしていた、そのうち話は、お互いの仕事へと変わっていった。
「そういや、今どんな仕事してるんだ?」
一華にそう尋ねられた俺は、少し口をつぐんでしまった。
「お前、俺が高校の時にお前と草忘に話した夢、覚えてるか?」
一華は少し考え、うろ覚えのように言った。
「確か…刑事…だったか?」
俺は少し驚き、また少し嬉しかった。
「正解だ、実は俺、高校卒業したあと頑張って警察官になったんだ、だけど、刑事になるためには上司の推薦が必要でさ…」
「なるほど、それで上司の推薦が貰えなくて行き詰まってるワケか」
「ああ」
一華は俺の話を聞いて考え込んでしまった。
「ごめん、忘れてくれ」
俺は一華にそう言った。
「いや」
一華はその言葉を遮り何か思い出したように話し始めた。
「お前、覚えてるか?高校3年の時に俺とお前と草忘の3人で部活の方針を決めるってなった時の話」
「?」
「ほら、あの分度器の話」
「あ!草忘が話してくれたヤツか!懐かしいなぁ」
「そう、それ」
俺は高校の時を思い返していた。
俺、一華、草忘の3人は、自分たちが卒業した後もその部活を残すためにかなりの時間話し合っていた、長い話し合いのすえ、「今いる部員を育てる」派の一華と「新しい部員を呼び込む」派の俺で別れていた。俺たちはお互いの意見をぶつける内にの仲が悪くなっていってしまった。そんな時、間に入り仲裁してくれたのが、草忘シオン(くさなき しおん)彼女だった。
彼女は言い合っていた俺たちにこんな話をしてくれた。
「もう、今のアンタたちは極端すぎるのよ、これを見て」
そう言って出してきたのは、分度器だった。
「いい?今アンタたちは0°と180°のところに居るの、でもメモリの先は全て1つのところに向かっているでしょ?つまり、どっちかの意見だけじゃあ駄目、どっちの意見も必要、そして両方の意見を合わせれば完璧なものになるってこと、わかった?」
俺たちは最初、ポカンとしながら聞いていたが、次第に顔を見合わせ大きく笑った。
「なに笑っているのよ!」
そう言って、草忘は顔を赤くしながら頬を膨らませていた。
「いやぁ、良い話だったけど、分度器はなんかなぁ」
「そうそう、草忘は女の子なんだから、かわいいもののほうが良いよ」
俺たちが笑って言うと。
「じゃあ、例えば?」
と草忘が聞き返してきた、俺たちは少し考え。
「「パンダ」」
と2人で同時に言った。それからは3人で笑いながら新しい案を考えた。
「今思えばあそこで分度器なんて言う可笑しな例えのおかげで、あの場の険悪な空気がなくなったから、草忘には感謝しなきゃな」
そんなことを言って、一華は星を見上げていた。
「そうかもしれない」
そう言って、俺がうなずくと、一華が。
「そういえば、お前のこと草忘は好きだったとおもうぞ」
といきなり言ってきた。
「えっ⁉」
俺が驚いていると、「なんだ。知らなかったのか」と肩をすぼめていた。
「まあ、真実は本人に聞けよ」
気づくともう学校についていた。
同窓会では、久しぶりに会った友達と高校時代の話をしたり、思い出を振り返っていた。
俺はあの3人で思い出話をしていた、その後、草忘に真実を聞くと本当だった。俺と草忘は同窓会の後、1年ほど恋人として一緒にいたが、お互いの仕事が忙しくなり別れてしまった。
その後、連絡は取っていなかったが、別れてから約2年たったある日仕事で会ってしまった、久しぶりに会った草忘は、白く、冷たく、眠っていた。近くには、青く小さな花と赤く大きな花が添えてあった。それを見た俺は分かってしまった、誰が花を添えたのかを。
取り調べ室に入った俺は、その相手に訪ねた。
「俺はあの時、アイツがなんで例えをパンダにしなかったのか今分かったよ、アイツは白と黒にしたくなかったんだろう、でも、そうなっちまった、なあ、なんでなんだろうな…?」
おわり。
花言葉 つる子 @itiha
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