第2話

※ステータスボード(仮)に表示された「スキル」を「初期 技能スキル」に変更しました。



――――――――


 まあ、妙齢さんの動きは最初からおかしかったよね。

 十字は普通胸元で切るもので、相手に指先を見せて切るのは変。こっちの世界では普通と言われたらそれまでなんだけどさ。

 そこまで考えて、指先を動かす感じがスマホの操作に似てるな、と何となくステータスボード(仮)を触ってみたら、この文が表示された。


<<初めにこの世界での名前を決め、ステータスポイント《SP》を使用して初期 技能スキルの取得や能力値の強化を行ってください>>


 つまり、この残SPの欄に記載された30ポイントを割り振って、ゲームみたいに初めから持ってる技能スキルを取ったり、初期の低い能力値を自分のスタイルに合わせて上げろということなのだろう。

 現実味が全く無いけどそういうことらしい。

 で、そんなことをしてないだろう阿賀くん以下5名は「なんで才能とかを褒められているんだろう?」と考えてみれば……。


「妙齢さん、勝手に人のステ振りしてね?」


 となる訳だ。さっきから一人に時間掛けすぎだよね、とは思ってた。

 そして僕にとって最悪なことは、妙齢さんが僕らの見た目でステ振りをしてるっぽいこと。

 というのも魔法も使えるオールマイティ系剣士と褒められていた阿賀くんは、『筋肉系イケメンで何でも出来そうに見えても実際はただの馬鹿(誉め言葉)』という残念キャラだし、眼鏡掛けてて知的に見える宇井くんも、『赤点四天王筆頭で目が悪いのはpor〇hubの見すぎ』というヤツだから知力INT特化の魔法使いと言われても違和感しかない。

 唯一納得できるのは、柔道部で体格がクラスで一番良い伊藤くんが筋力値STR体力値VITが高いということだけ。

 衛藤さんはまあ……どことは言わないけど大きいから、見た目だけなら母性的だし聖女っぽいと言われればそんな気がしないでもない、かな?


 ということで、何もしなければ僕も見た目でステ振りされそうな訳で――。

 見た感じ陰キャ。中身も陰キャ。学校でも授業中は前の人に隠れてお昼寝するのが大好き系の陰キャ。このままだと陰に潜む盗賊とかにされて汚れ仕事とかさせる未来しか見えない。働きたくないでござる……。

 というか裏稼業とか速攻死にそうだよね。なので妙齢さん任せのステ振りは無いかな。かと言って勝手に自分で決めるのは拙そう。だって、自分でステ振り出来るの僕らに隠してるっぽいし。


 妙齢さんたちが僕らが自分でステ振り出来るということを敢えて言わないのは、それが妙齢さんたちにとって都合が良くないからだよね。だから、それを勝手にやってしまうと妙齢さんたちは多分とても嫌がると思う。問題はそれがどれくらい嫌がられることなのかが解らないってこと。

 「ダメだぞ~」と頭を小突かれるくらいなら良いけど、万が一それが即敵対するレベルだった場合は非常に宜しくないことになりそうで怖い。

 ただの高校生たちを帯剣した大人10人が囲むレベルには警戒されていたのだ。下手なことは絶対にしてはいけないと、僕の高い直観力INTが言っている……気がする。


 どうした物か、とか考えていたら5番めの尾上おのうえさんの順番が終わっていた。僕の番まであと10人。いや、本当にどうした物かな。

 何か良い方法はないかとステータスボード(仮)を取り合えずいろいろ触ってみる。もちろん妙齢さんたちにバレないように周りに気を付けながら。

 下手に触ると勝手にSP使って能力値が上がって元に戻らないとかありそうなので、とりあえず能力値の部分は避けて、技能スキルの項目を恐る恐るタップしてみる。すると、ステータスボード(仮)の上に浮かび上がるように新たなウィンドウが現れた。見てみると現在取得可能らしいスキルが幾つか表示されている。ひーふーみー……と数えて10個ほど。思ったより少ない。

 『努力』とか『忍耐』とか、怠惰な僕には必要そうで、かといって今必要かというととても微妙なスキルばかり。阿賀くんの時に言っていた『両手剣』とか『火属性魔法』とか良さげなものがまるで無いんですけど。あっ『生活魔法』とか結構便利そう。

 そんな中、『偽装』といういかにもな物があったのでタップする。



====================

〇『偽装』Lv.1 要SP 5ポイント





====================



 うん、まさかの説明無し。いや、何か説明入りそうな空欄はあるんだけど何も書かれてない。

 さっきみたいに新しいウィンドウが開くかと思って空欄部分をタップすると、パソコンのテキストエディターのような縦棒のカーソルが現れた。


「えっ、まさか自分で説明書き込むの?」



====================

〇『偽装』Lv.1 要SP 5ポイント

 えっ、まさか自分で説明書き込むの?_|




====================



 そしてまさかの音声入力。そっかー全部手探りで情報集めていく感じの不親切系RGPムーブなのね……って、ネットの攻略掲示板もない世界(試したけどスマホの電波繋がらなかった)でこの難易度設定はヤバいだろ。例えるなら『ドル〇ーガの塔』を自分で攻略本作りながらクリアしろって感じだ。マジかー。

 ふと目線を上げると6番目の染谷そめやくんの番が終わっていた。今回は結構早いな。体感で一番長かった衛藤さんの、半分の時間も掛かってない感じ。妙齢さんのお褒めの言葉も少なく、染谷くんは神官服を着た小父おじさんに慰められながら出て行った。

 これは――もしかしたらステータスには個人差があるのかもしれない。能力の数値にも個人差がありそうだけど、妙齢さんがステ振りに時間を掛けなかったことから残SPが少なかった可能性もありそう。

 手詰まり感から次の蜂巣はちすさんのステ振りもそのまま見ていると、今度の妙齢さんはあからさまにため息をついて「残念ながら貴方には才能が無いようです。勇者となる皆様を陰から支えて上げてください」と言って蜂巣さんを列から追い出した。

 三つ編みメガネの蜂巣さんは、可哀そうなくらい意気消沈して部屋から出ていく。ステ振りしなかったってことは、まさか残SPが無いってこともあるのか?

 

 僕の残SPは30ポイントある。切りがいい数字だったから最初は皆同じかと思っていたけど、これが違うとなると話しはちょっと変わってくる。つまり、ちょっと使っても妙齢さんたちにバレないかもしれない。

 確証はないし間違っていたら洒落にならなさそうだから踏ん切りがつかないけど。


「何をしている!」


 声を荒げた年嵩の男が、帯剣した男たちを連れてこちらに向かってきた。僕は慌ててステータスボード(仮)を隠そうとするが消し方が解らない。あたふたしている内に男たちは僕の前まで来て――そのまま通り過ぎて後ろに並んでいた瀬戸さんを取り囲んだ。


「勝手なことをするな」


 ちらりと振り返ると、瀬戸せとさんが不自然に中空に手を伸ばしたまま固まって震えていた。たぶん僕と同じようにステータスボード(仮)を弄っていたのだろう。

 すぐ隣の僕の前にもステータスボード(仮)が出たままなのに男たちは何も言わない。つまりステータスボード(仮)は本人以外には見えないのかもしれない。見た目中世風なのにプライバシー意識だけは進んでいるみたいでウケる。全然笑えないけど。

 年嵩の男に腕を掴まれた瀬戸さんが悲鳴を上げる。彼氏の松下まつしたくんがそれを止めようとして殴られた。


「ちょっと!」


 そのまま瀬戸さんと松下くんを連れて行こうとする男たちに向かって、瀬戸さんの友達の津山つやまさんが掴み掛かろうとしたので慌てて捕まえて口を塞ぐ。

 男たちの一人が「何だ?」というように振り返るが、津山さんをかばうように抱きしめて怯えている振りをして誤魔化ごまかした。まあ、めっちゃ震えてるし本気で怯えているんだけどね。

 津山さんがゼロ距離から思いっきり殴ってくるのも何とか耐えた。


「痛いよチカちゃん」


 瀬戸さんたちを連れて年嵩の男が部屋を出ていき、帯剣した男たちがまた列から離れたのを確認してから津山さんを離す。周りのクラスメイト達も動揺してざわついている中、妙齢さんが「大丈夫です。何でもありません」と叫んでいた。いや、何でもはあるだろう。

 

「チカちゃんって言うな」


「じゃあエロチカ姉さん」


 無言で殴られた。痛い。

 津山さんはため息を一つ吐くと、僕から離れて列に並び直す。あそこで騒いでも仕方がなかったって津山さんも解っているんだろう。まあ、納得はしてくれなさそうだけど。


「瀬戸さんも松下くんも大丈夫だと思うよ。僕らは勇者らしいから、使い道があるうちは大事にされるよ。多分だけど」


 蜂巣さんみたいにステータスが残念だった場合のことは、言っても仕方がないので言わない。

 何か言いたげな津山さんを尻目に、僕はステータスボード(仮)をチェックする作業に戻る。嫌な予感が当たった訳だけど、だからこそステ振りを妙齢さんたちに任せる選択肢は完全に無くなった。

 僕らはまだガキだから、間違ったことをしたら叱って聞かせるのなら分かる。百歩譲ってそのことが原因で殴られたとしても理解することはできる。だけど、何が悪かったのかも教えず、ただ殴って僕らを従わせようとするのには納得できない。

 

 そんなやからに従っていても良いことなんて一つも無いだろう。都合の良いように使われて捨てられるのがオチだ。

 だから、多少の無茶をしてもステ振りを自分でやって逃げ出すことを考えよう。

 剣持ってる大人が怖いから目立たない範囲の人数で、僕に付き合って逃げても良いという奇特な人を連れて。



――――――――

フォロワーさんが出来てめっちゃテンション上がりました(笑)

面白いと思って頂けましたら、是非また見に来て下さい。

お待ちしてます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

なんにも出来ない勇者さま 〜その依頼、謹んで辞退させて頂きます〜 @kajiman

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ