第1話

※プロローグ追加に合わせ全編書き直しました。お手間掛けて済みません。


――――――――



 人には出来ることと出来ないことがある。

 出来ないことはどうやったって出来ないし、だから自分は相手にもそれを求めない。

 つまり何が言いたいかと言えば――


「諸君らにはこの世界を救って頂きたい」


 僕たち2年B組は、異世界に召喚されて無理難題を押し付けられてしまったらしい。



――――――――


 まるで映画のセットの中にいる様だな。ひどく現実味がない。第一印象はそれだった。

 継ぎ目の無い、黒一色の巨大な石の台の上。周りには倒れた机と椅子、教室だったものの破片が散乱している。遥か天井からは、荘厳さを感じさせるステンドグラスを通しての光が降り注ぐ。

 正面には恐らく神様だろう二柱の石像。説教台も座る椅子も無いが、教会のような厳かな雰囲気を感じさせる場所に僕らはいた。


「どこだ、ここ」


 呆然とした表情の阿賀あがくんが言った。周りにはまだ目を瞑って震えている女子もいる。

 朝のホームルームの予鈴が鳴った時、突然の大きな揺れにおそわれたのを思い出す。立つことも出来ずに必死に机の下に潜ることしか出来なかった。そして、ふわっと浮き上がるような感覚の後、気が付いたらここにいた。


 何だろうか。とても厄介なことに巻き込まれてしまった気がする。

 頭を打ったようにぼうっとする中で浮かんだこの感覚は当たっていたようだ。

 いつの間にか僕たちを囲むように並んでいた大人達。その中の、腰に剣をした年嵩としかさの男が僕たちを「勇者」と呼び、世界を救って欲しいと言い出した。

 その言葉を聞き、クラスメイトの半数は勇者だなんだととても盛り上がり、残りの半数は不安を隠し切れない表情だ。

 幸いなことに騒ぎ立てそうな人たちは、皆この状況を喜んでいるようなので下手に暴発をするようなことが無かったのは良かった。一般的な誘拐では無さそうだが、帯剣している男たち(数えてみたら10人いた)の雰囲気から家に帰れるのかが非常に聞きにくい。今は黙って従うべきだろうか。

 取り合えず僕は、勇者盛り上がり組の後方に混じってニコニコとしていることにした。


「では皆様、順番にこちらの宝珠オーブに手を乗せて下さい。そうすると、皆様の持つ力が目で見えるようになります」


 前垂れの部分に十字の紋が染め上げられたローブ、所謂いわゆる神官服をまとった妙齢(高齢)の女性が、剣士の集団の後ろから現れて笑顔でそう言ってきた。

 妙齢さんの後から同じ様な格好をした人たちが次々と現れて、腰上高の台をこしらえて宝珠オーブと呼ばれた芯に赤い結晶がある水晶玉のようなものを置く。

 いまだ僕たちを囲んだ男たちはその剣のつかに手を添えて、いつでも抜けるように備えている。何となくだけど、神官さんたちは僕たちが暴れ出さないか剣を持った人たちの後ろで様子をうかがっていたのではないかと思う。

 勇者盛り上がり組が宝珠の前に列を作ると、僕はその最後尾に並んで成り行きを眺める。そして僕の後ろに不安組が不安そうに並んでいく。


 最初に並んだ出席番号1番の阿賀あがくんが宝珠に手を乗せると、宝珠を挟んで反対側に控えていた妙齢さんが、中空で指をスッスッと動かし十字を切るような動作を繰り返す。

 そうしてしばらくすると、妙齢さんが突然阿賀くんを褒め称え始めた。

 

嗚呼ああなんと言うことでしょう、この方は両手剣と火魔法の才を同時にお持ちです。さすがは勇者様です。武器スキルと魔法スキルは反発し合うので、両方を持つ方は非常にまれなのですよ」

 

 如何いかに阿賀くんの持つ才能が素晴らしいか、勇者に相応しいかを力説する妙齢さん。照れる阿賀くん。そんな阿賀くんを側に控えていた神官のお姉さん(やや若い)が列の外に誘導しつつ部屋の外に連れていく。


「今後は“ステータス”と口にすればいつでも確認出来ますよ」


 扉を閉じる音に混じって神官さんのそんな声が聞こえたので試してみたら、目の前に突然A4サイズくらいの半透明の黒板のようなものが現れた。

 驚いて声を出しそうになるのをこらえていると、同じようにびっくりしたような声が真後ろから聞こえてきた。はてさて。

 取り敢えず表示されている情報を確認していく。


「おお、この方は筋力STR体力VITの値がとても高いです。これから修練を積み、盾の才能を得ることが出来たならば、優れた騎士として名を馳せることが出来るでしょう」


 出席番号2番の伊藤いとうくんも、褒められて口元を緩めている。そして阿賀くん同様神官のお姉さん(とても若い)に部屋の外に連れられていく。

 僕の手元のボードには、まるでゲームのステータス画面の様に、名前などの欄から始まって筋力値STRなど能力値ステータス一覧、そして最後に所持しているスキルの一覧が表示されていた。

 現実とは思えない現象だが、今の状況も現実離れしているので、深く考えるのは後回しにして取り敢えずそれぞれを確認していく。

 まずは名前。何故か空欄になっている。え、なんで? これは僕のステータスではないの?? と若干パニクったが、よく見ると名前欄の下に小さく「旧世界での名前」という欄があり、そこに僕の名前が記載されていた。何となくそうだとは思っていたけど、どうやら僕らは違う世界に連れてこられてしまったらしい。

 名前欄には年齢やらランク(?)、現在の状態等の表記のほか、残SP:30pointという良く分からない数値。他にも一部分が光っている輪っかのようなイラストがあったが、今は解らないので置いておく。

 次に能力値ステータス。RPG《ロールプレイングゲーム》でよくある体力HP魔力MPから始まって筋力STR等が続く。僕のステータスはどうやら、唯一 直感INTが12と他に比べて高いものの、それ以外は4とか5ばかりで軒並み低い。握力は人並なはずなので、筋力値4というのは一般男性の平均くらいだと思う。たぶん。それに比べて12という直観力は相当高いはずだが、今まで17年生きてきた人生の中でその恩恵を受けた記憶がまったくない。何となくだがこの世界特有の能力値のような気がする。

 

「ああ、貴方は知力INTがとても高いのですね。それに加えて火と土の2属性の魔法の才をお持ちです。修練を積んだ魔導士ならいざ知らず、初めから複数の属性魔法を使える才能の持ち主はほとんどおりません。これは素晴らしい才能です」


 次に宝珠に手を乗せた出席番号3番の宇井ういくんも褒められて、満更でもないように笑顔を浮かべながら神官のお姉さん(そこそこ若い)に部屋の外へと連れられていく。

 それにしても長いな。手を乗せてから妙齢さんが結果を言うまで、余裕でカップラーメンが作れる時間が経っていた気がする。妙齢さんもいつも以上に指先をスッスしてたし。

 それと宇井くんのINTと僕のINTの呼び方が違うのが非常に気になった。が、さっぱり解らないのでこちらも後回しだ。


 ということで次はスキル欄を確認する。半透明の黒板(仮にステータスボードと呼ぶ)の僕のスキル一覧には、たったひとつだけ「簡易言語解釈」というスキルが表示されていた。それ以外には何もない。宇井くんと違ってINTは高くても魔法は使えないらしい。さらに伊藤くんのように戦士系の能力があるわけでもない。出来ることは“簡易言語解釈”という翻訳こ〇にゃくの劣化版(たぶん)スキルだけ。まさかの翻訳特化のディスクワーク系勇者の爆誕か !? などと悶々としていたが、考えてみればどう見ても外国人の神官さんの言葉を理解出来たのはこのスキルのお陰な気がするし、その言葉に従って宝珠オーブの列に並んだ僕たち全員がこのスキルを持っていることは簡単に予想が付く。つまり、翻訳特化のディスクワーク系勇者はクラスメート全員が成れそうであり、僕はただ直観力が高いだけの他に特徴のない異世界人ということになる。

 えっ……もしかして僕、無能っぽい?

 

 宇井くんの次に並んでいた衛藤えとうさんが、こちらを非難するようにチラリと見てから宝珠に手を乗せる。うん、ごめんね。

 それにしても結果が出るまで長いね。休み明けの阿賀くんのトイレ(大)と同じくらい長いよ。宝珠オーブの反対側の妙齢さんもシュッシュッと十字を切って忙しそうだ。


「何ということでしょう! 貴女は癒しの力を持つ聖属性魔法の適正をお持ちです。聖属性魔法はこの世界では百人に一人しか持てないという、言うならば神に選ばれた才能。きっと貴方は聖女と呼ばれる存在になることでしょう」


 百人に一人で聖女は言いすぎな気がするが、とにかく凄いな衛藤さん。妙齢さんにこれでもかと褒められた衛藤さんは、ただでさえ大きい胸をこれでもかと反らしながら、神官(イケメン)と共にとても良い笑顔で部屋から出て行った。ヤバいくらいに天狗になっているところがとても衛藤さんらしくてホッコリする。あの子にはいつまでもポンコツのままでいて欲しい。


 さて、ここまでステータスボードを眺めていて解ったことがある。一つはこれは僕のステータスを表示するボードであること。もう一つは現在の僕のステータスは直観力INT以外とても平凡であること。そして最後のひとつは――

 

<<初めにこの世界での名前を決め、ステータスポイント《SP》を使用してスキルの取得や能力値の強化を行ってください>>


 空白の名前欄をタップしたことで出たこの表示。

 どうやらスキルも能力値も、これから後付け可能らしいということ。



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面白いと思って頂けましたら、是非また見に来て下さい。

お待ちしてます。

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