第2話
【忘れ去られた遺跡】
タスクの住む町、ハルスから東にある小さな森の中心にある遺跡。森の中にひっそりと存在しており、何故か森の中には魔物がいないため多くの動物達が存在していた。遺跡の建築形式から創世の時代に作られた神殿ではないかと、ここを訪れた考古学者達は言う。
誰が、何のために建てたのかは謎であり、かつて様々な考古学者が調べてみたが、結果は何一つとして判明する事はなかった。いつしか人々がこの遺跡に訪れる者はいなくなり、今では誰一人として遺跡を調査する者はいなくなった。
そんな、人が訪れる事が無い遺跡をタスクは幼い頃より、ニーナと共に遊び場として使っていた。
成長してからは、遊び場として使わなくなったが、タスクは昼寝の場所としてたびたびと遺跡を訪れている。
「ここに来るのも久し振りだな。最近は旅支度でなかなか来れなかったらな」
遺跡の中に入ると、勝手しる我が家の様に目的地である広間に向かう。
広間に着くと、そこにはタスクが寝るために作った簡易ベッドやランプなど、遺跡の中とは思わない日用品が幾つか置かれていた。かつて神殿であったと推察される様に、広間の中には大きめの台座と何かの像であると思われる原型が分からない程に砕け散った像が置かれている。
「ベッドはこのまま置いて行くとして、最後にもう一度遺跡の中を見て回るか」
幼い頃、ゼンとニーナと共に『忘れ去られた遺跡』にやって来た時のタスクにとって未知なる場所であり、初めての冒険であった。
幼い頃の事を思い出しつつ、遺跡の中を歩き回る。幼い頃は広大な遺跡だと思っていたが、実際はそこまで広くはなく、遺跡の中を見て回り終わると再び、広間に戻ってきた。
「やっぱり、なにも見つからないよな」
分かっていたが、もしかしたら何か見つかるかもしれないのではという淡い気持ちは叶えられなかった。
気持ちを切り替え、広間に置いていた私物を片付けを行う。
片付けを終えると、砕け散った像の前に近づく。
像の周りには、像の一部であっただろう瓦礫が散らばっていた。瓦礫は、集めて何の像であったか判別しようにも分からない程に砕け散っていた。
タスクは幼少の頃よりこの光景に、まるで像の存在を消し去りたい様に感じてやまなかった。
「お前はどんな像だったんだろうな」
『……時…、満ち…た』
「……っっ!!」
台座に触れた瞬間、タスクの頭に突き刺す様な激しい痛みと共に、無機質な声が頭に流れ込んでくる。
『…の候補者……、…格……示せ…』
「……っっ…、なん…っだ…、この…声は」
頭に直接流れ込んでくる声により、タスクは激しい頭痛に襲われ、立っておれずに床に膝をつく。
『これ……よ…試練……を開……る。候補……よ、いざ…練……ち向……』
声が鳴り止むと同時にあれ程強い痛みを引き起こした頭痛が治まる。
タスクが息を整えようとすると、台座が置かれていた場所から音が鳴り響く。
台座が置かれていた方向に視線を向けると、台座が動き出していた。
急いで台座に駆け寄ると、台座は元の位置から後方に移動しており、元の位置には下に降りる階段が現れた。
「なんでこんな所に階段が?そもそも、なんでこの存在を学者達はきづかなかったんだ。魔法か、それとも…」
考えてみれば色々な考察が出来るが、タスクの頭の中は別の事で考えが染まり、思わず笑みがこぼれる。
「何はともかく冒険だな」
この場にニーナが一言、「馬鹿、死にたいの」と有り難いお言葉が送られていたであろう。
本来なら、加護も魔法も無い、戦闘力のゼロに等しいタスクが未開調査など論外である。冒険者ギルドに報告すべき案件である。
しかし、今この場にタスクを止めるストッパーニーナはいない。
タスクは広間に置いていた荷物の中で探索に使えそうな物を用意し、階段を下りて行った。
「これは…」
階段を降り終わると、一本道の通路が続いていた。
通路は通路は松明が無くても明るく、同じ遺跡なのかと疑いたくなる位の一切の朽ちた様子ない壁。地上と地下では同じ遺跡なのかと疑いたくなる光景にタスクは高揚感が高まる感覚をひしひしと感じた。
高まる鼓動を何とか抑えつつ、通路を進んでいくと四角い部屋にたどり着く。
部屋全体は通路と同じ材質になっており、部屋の広さは広間より狭いがそれでもそこそこの広さになっていた。部屋の向こう側に通路があるのだが、部屋の中央に騎士らしき者が立っていた。
「あんたが、さっきの声の正体なのか」
タスクの呼び掛けに対して、騎士らしき者は一切の反応を示さない。
少し近づいてみようと、タスクが部屋に足を踏み入れた瞬間、今まで動いていなかった騎士らしき者は剣を抜くと同時こちらに向かって駆け寄ってくる。
「!…ちっ!」
騎士らしき者が走って来た瞬間、自身の安易さに舌打ちしながらタスクは急いで階段まで引き返す。
階段まで引き返し後ろを振り返ると、騎士らしき者はまだ来ていなかった。
しばらくその場で騎士らしき者が追って来るのを待っても追って来る気配が感じられなく、タスクはその場で座り込み一息ついた。
「危なかった~。流石に軽率だったな」
タスクは自身の弱さを自覚している。
加護を授かっている者には位階というものが存在する。位階が上がるごとに身体能力、魔力量が増幅していくが、加護を授かっていないタスクは魔力量は莫大の量を誇るが、身体能力はからっきしである。魔法も使えない為、幼少の頃よりゼンの指導の下、徹底的に回避行動を鍛えられている。
(浮かれすぎていたな。気を引き締めない。今のをゼンさんやニーナが知ったら何言われる分かったもんじゃない)
呼吸を整え終えると、先程の部屋の前まで戻って来た。騎士らしき者は先程と同じ部屋の中央に立っていた。
(部屋の外には出れないのか。あの騎士、落ち着いて見たら人の気配を感じられない。ゴーレムの一種か。たしか、製作者が持っている加護を作品にも効果を与えることが出来たはずだよな。とりあえず、騎士人形を避けて向こうの通路に入ればいいんだろうな)
賭けではある。回避手段しかないタスクは、逃げ切れなかった場合、抵抗する手段を持ち合わせていない。
しかし、先程の騎士人形の動きから勝算も感じられた。騎士人形の動きはタスクの身体能力より上にではあったが、躱せない程ではなかった。何より室内から出てこないのなら、戦闘能力は関係がない。これならば、自身にも勝算が感じられる。
何より、冒険者を目指すのなら時には賭けをしないといけない状況もきっとやって来る。現状悪くない賭けであると考えたタスクは再度部屋に足を踏み入れる。
タスクが部屋に入ると同時に、先程と同じく騎士人形の方に向かって接近してくる。騎士人形とタスク距離が騎士人形の間合いと同じになった瞬間、騎士人形はタスクに向けて剣を振り抜く。
タスクは迫り来る剣に対してぎりぎりの距離で避ける。その後も、次々くる剣撃に対して躱し続ける。
タスクの予想道理、騎士人形の剣撃はタスクの身体能力を上回る速度で斬り掛かってくるものの、決して躱せないものではなかった。
騎士人形の剣撃を避け続けて行く内に、タスクは階段側の右の隅に追い詰められていく。
タスクが右隅に追い詰められると、逃がさないと言わんばかりに騎士人形は今までで一番の剣速を誇るを一撃をタスクに振るう。
その瞬間、タスクは回避すると同時に騎士人形の脇を通り抜け、騎士人形の背中に蹴りを入れ、立ち位置を入れ替わる。
そのまま出口に向かって走ると、後方から騎士人形が迫る気配を感じ取る。
しかし、僅かな距離により、騎士人形に間合いに入る前に反対側の通路を潜ると騎士人形は入口の前で止まり、再度部屋の中央に戻っていった。
予想通り、部屋から出ない騎士人形を確認し、タスクは通路を進んでいった。
通路の先を進み終わると、そこはちょっとした幻想的な場所であった。
「……きれいだ」
無意識に口から零れ落ちた。先程の部屋よりは狭いものの、無機質壁しかない部屋とは違い、部屋の中心には地下だというのに、花が咲き誇り、花のための水路も引かれていた。
ただ、幻想的な部屋に唯一の異質な物が混じっていた。それは棺であった。花の上に、高価な材質であろう物で作られた棺が置かれていた。
タスクは何処か幻想的な部屋を眺めつつ、棺の前まで歩く。
(さて、開けた瞬間、ゾンビに襲われるなんて展開は無しにしてくれよ。)
そんなことを考えながら、タスクはおそるおそる棺を開けると、
「っ!!」
中には、この世の者とは思えない美少女がいた。絹のような美しい銀色のロングヘアーで、陶器のような白い肌。身体も、腕や脚は、不健康に見えなく、すんなりと長く細い。ウエストは折れそうに細く締まり、胸と腰周りは十分に女らしい曲線を描いている。そして、そんな少女に似合うドレス。そんな少女が棺の中に手を組んで置かれていた。
タスクは数十秒間、惚けて見ていた。とても死んで棺に埋葬されている様に見えなく、ただ眠っているとしか見えない少女に思わず声を掛ける。
「あのぅ、大丈夫ですか」
声をかけみるが反応はなく、少女に触れてみると、体温が感じられて生きてはいるようだ。
「さて、どうするか」
少女をもう一度見ると、棺の中に少女の髪と同じ色をした物が置かれていた。
「これは?」
気になり、棺の中から銀色の物体を取り出すと、先程と同じ様に頭の中に直接声が流れ込んでくる。
『…の候補…が試練…突破……認。これ…と…仮契約……う』
「ああああああああああああああ!!!!」
さきほどよりもより激しい痛みがタスクを襲い、手に持っていた物を落とし、両手で頭を押さえた状態で、地面に蹲った。
『覚悟を示した時、あらためて・・・・の契約を結ぶ』
「…か、かく…ご。…契約ぅ。…何を…言っている…んだ」
問いかけても声は返ってこず、痛みだけがタスクを襲い続け、意識が次第に曖昧になってくる。
『………お願い。あの子を守ってあげて』
最後、無機質な声から誰かの事を託すような少女の声と共にタスクは意識を手放す。
「あのぉ、大丈夫でしょか?」
どこから声が聞こえた瞬間、タスクは意識を取り戻す。
どれぐらい意識を失っていたか気になりつつも声の方向を向くとそこには、先程まで棺の中で寝ていた少女がタスクの傍に屈んでいた。
少女は翡翠色の瞳をこちらに向けて、不安になりながらも、心配そう表情でタスクを見つめていた。
十三番目の神器使い 天城 八雲 @re-crescent
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