第4話 名前で呼び合うのって最初はすごい緊張するよね

 もうすぐ日が暮れる午後五時、家までリリスと一緒に帰ることになったが、これってちょっとまずくないか?

だって、リリスって何も知らない人から見れば、スタイル抜群な美少女外国人なわけで、その横に一緒に歩いてる男が、自分で言うのもなんだがごくごく平均値の奴って…何だこれ、俺への罰ゲームか?また違う意味で視線がグサグサと痛いんですが……。


 しかしその実態は、中二病真っ盛りで、自分を魔王の娘と号し、謎に上から目線で接してくる破天荒な転校生という真の顔がある。

 そして人との生活と調和していくための教育係に俺が選ばれたという何とも災難な役回りをさせられたわけで。

まあそれでも今まで退屈だった俺には、こんなことでも楽しく感じれてしまう。

クラスではいつも一人で、だから唯一の友達ができたときはすごく嬉しかった。

アイツが女たらしって知るまではな。なんで俺の周りにはまともな奴がいないんだよ…。


「なあなあ、綸己~。」

なんて考え事をしてる俺に、何にも考えてなさそうな間抜けな声で俺の名前を呼ぶ迷惑転校生。

「何だよ。」

「もっと人間のことを教えてくれ!」

「あのなぁ、せめて人間のどんなことが知りたいのか教えてくれないとこっちも付き合ってられないよ。」

「そうだなぁ……」

「じゃあさ、教室で女どもが言ってた○○-ズモ〇ルってところに連れて行ってくれよ!あそこに行けば買いたいもの何でもそろうって聞いたぞ!」

「それは偏った情報だと思うけど!?」

てかそんな事より、おいおい、あのリア充とか女子高生のたまり場に連れて行けっていうのかよ、さすがにそれは俺じゃ無理だ。

「そういうところは蓮太郎に連れてってもらえ、俺にはああいうところは無理だ。」

「なら綸己の行きたいところに連れて行ってくれ。」

「えっ…」

予想外の返答に思わず言葉が詰まってしまった。

興味があるものに何でも飛びつくコイツだから、俺の提案に賛同すると思っていたが、リリスから新しい提案を持ち出してきたから。

もしかして…いや、まさかな、

「我は何も知らないから新しいものなら何でもいいんだ。だから綸己の行きたいところ、別にしたいことでも構わない、それを教えてくれ!」

…まあ現実こんなもんですよね。少しでも期待した俺が馬鹿だわ。

でも、「…でも良いか?」

「えっ?なんだ、聞こえなかったぞ」

「ア〇オでも良いか?キューより小さいけどあそこならここから近いし、あそこでも買いたいものは大体揃うしな。」

リリスの表情が一気に明るくなるのが見て取れる。顔は口ほどにものを言うってのは本当だな、コイツの場合口でもやかましいから、顔もきっとやかましそうだ。

「そこでもいいなら、一緒に行く…」

「行こう!そこに行こう!」

「お、おう。」

こっちの話が終わる前に返事をした。よっぽど嬉しいんだな。

「俺と言っても楽しくないかもしれないぞ?」

でも一応照れ臭くお決まりの言葉を返してみた。

「人間のことを学べるなら、絶対どこでも楽しいよ。」

まあ『あなたと一緒ならなんでも楽しいよ』じゃないところが期待通りというか期待外れというか、…でもお前のそういう真っすぐなところ、ちょっと羨ましいよ。なんてコイツに言えるわけないから、心の中で言っておく。


そんな今度の予定の話をしていたら、俺の家が見えた。

「思ったより小さいんだな。」

「うるさいな!悪かったな貧乏で!」

「我の城はお前のところの学校ぐらいはあるぞ」

「なっ!」

……そうか、そういうことだったのか、家があまりにもお金持ちの家庭過ぎて、一般家庭の常識とかがわからない系お嬢様だったのか…、にしても常識無さすぎない?


「ほら、家に着いたんだから約束通り、家に…」

「分かってるって。」

また話を途中で遮られた。でも今度は少しあきれたような、寂しそうな顔だった。

「じゃあ、また明日な。」

「おう、明日からも我の教育係頼むぞ!」

でもその顔はすぐにいつもの少年のような、無邪気な顔に戻った…かと思ったらまた寂しそうな顔になる。

なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ、今まで通り言いたいこと言えば良いじゃないか。

でも今までまともに人とのコミュニケーションをとってない俺には、そんなこと聞けるはずもなかった。


俺はリリスとは反対の家の方を向き、玄関の扉を開けようとした。

「お、おい、綸己…」

「ん~?」

「毎日、朝迎えに来ても良いか?少しでも多く人間について知りたいんだ。だから、良いよな?」

そんな理由ならなんでそんなに顔を赤らめて、モジモジしながら言うの!?

「俺としても早く普通に今まで通り暮らしたいから、早く人間の生活に慣れてもらうことに越したことはない。…そして早く見つけろよ、救世主。」

「っ…うんっ!じゃあまたな!」

「あぁ、また明日。」

リリスは俺が玄関に入るまで、最高の笑顔で見送ってくれた。

「また明日…救世主」


俺は制服のままベッドの上に座りスマホを触って静かな時間を過ごしていた。

アイツが携帯持ってなくてよかったよ、プライバシーの時間まで奪われるところだった。

結局救世主って何なんだよ、中二病ネタに乗っかってくれる、彼氏のことでも言ってんのか?なんて深読みしちゃうじゃねえか。

でも、もしそうなら、俺はその時いらなくなるよな。


『おかえりなさい、あなた。ご飯にする?お風呂にする?寝る?』の有名なネタのうちの最初の二つを済ませた俺は、今から三つ目の『寝る』に入るところだった

そして俺はあっという間に眠りについた。



『……き……綸己……魔……娘に……を貸さないで、あな……つか……神の座に……お願い……じゃないとあなたは……』

「ん~っ。またこの夢……最近毎日だな、神だの何だの、俺もリリスに毒されたか?」

毎回断片しか聞き取れないし、記憶も断片しかない。本当に中二病に目覚めたか?


気を取り直して、今日はアイツとの初デー…じゃなくて、人間の一般常識を知るための校外学習の日。

場所は七尾駅の〇リオ。このモザイクだと某有名ゲーム企業の超有名キャラクターみたいだけど。

集合時刻は午前十時に七尾駅改札口…のはずが、家を出たらいつものように家の前にリリスがいたので一緒に行くことになった。

そういえば電車の乗り方、知らないんだった。


しょっぱなからこの後の展開に先が思いやられるが、そこは最強のご都合主義が何とかしてくれると信じて、リリスとのお出かけ回、始まります!


追記 あれから毎朝ちゃんとリリスは家に迎えに来た。

こんなの勘違いしてもおかしくないよねっ!?ねっ?

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俺が神様になるまでの物語 コッペパン @kaz0202

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