第3話 学校での出来事を書くつもりは無い!(多分)
そんなこんなで周りの痛い目がグサグサ刺さる中、ようやく一限目の予鈴にありつけた。
「一限目は...うわ、おぐりんかよ。」
「ゴブリン?こっちの世界にもゴブリンはいるのか?」
横で俺の言葉を聞いていた転校生が惜しくて大きな間違いをしている。
「古典の小倉先生だよ。自分で自分のことおぐりんって言ってるから、皆からはおぐりんって呼ばれてんだよ。」
「ふぅーん。その先生変わってるんだな。」
お前だけには言われたくないだろうよ...って言いたいところだけど、おぐりんは確かにコイツに匹敵するレベルで変人だ。
一限の始まりを知らせるチャイムが鳴り、朝一番の何とも言えない気だるげな雰囲気が、まだ教室の中に漂っている。
「はぁぁぁい。おっはよ~ん。みんなのアイドル、おぐりんがきたよん。うふっ♡」
そんな気だるげな雰囲気というか空気を全く読まずに登場したこのヤバい女性こそが、そう、おぐりんである。
なんでも副業で舞台女優をやっているらしく、演技力向上のために、このいちいちうるさい動きとハイテンションな声で授業をしているらしい。
まあプライベートではかなり闇のオーラを振り舞いてるらしいけど。でも学校では、誰もその断片すら見た者はいないと言う。それだけ聞くと、この人すごいな。
でもその無理やりなハイテンションに付き合わされる生徒たちの身にもなってくれ。
時間というものは早く過ぎるもので、今は窓から夕陽が差し込む時間帯、
つまり放課後。
今日は本当に疲れ果てた。あれからもアイツは、事あるごとに誰彼構わず突っかかっていった。そのたびに俺と蓮太郎が止めに入って、、、
蓮太郎の方はなんか楽しそうだったけど、
しかも早朝テスト落ちた生徒はペナルティで教室の掃除をさせられて、終礼後の時間が奪われた。もちろん、アイツも落ちてたから掃除中どうなってたかの想像は容易にできるよね。
でもそんなアイツからもとうとう解放される...はずだった。
いまはスクールバスの車内、右側の席に座り、出発するのを待っている。
ここまでは普段と何も変わらない、いつも通りだ。
しかし、本当の本当に残念なことに、一つだけ今までと違うことがある。
俺の横に転校生が座っていることだ。
「なんでここにいるんだよ!」
「なんでってまだまだ人間というものを学ぶためにだな、」
「それはまた明日でいいだろっ!わざわざ家まで押しかけてくるな!」
思わず大声をあげてしまい、このバスに乗っている他の生徒からの視線を一斉に感じた。
「そんなことを言われても、お前は我を教育するという義務があるだろう?」
「いいから降りろよ!」
「我もこのバスに乗るのだ!」
「じゃあほかにも空いてる席があるだろ!そっちに座れよ!」
「犬が我に反抗するなっ!」
「っ…!」
とうとう堪忍袋の緒が切れた。もう話にならない、なんなんだコイツは。絶対にバスから降ろさせる。家が同じ行き先だろうが、もう知らない。クズ主人公上等だ!
俺はコイツをバスから降ろそうと必死にもがくが、時間というものは本当にあっという間だ。
『プシューッ、バタンッ』とバスの扉が閉まる音が前の方でした。
そうコイツ言い争っている間にバスが出発する時間になっていたのだ。
無情にも、俺とコイツを、国文駅を目的地とするバスが動き始めた。
横で勝ち誇ったように悪魔的笑顔を見せるコイツ、
あぁもう、ほんとうに、一体どうすればいいんだ。
それから俺とコイツは駅に着くまで一言も会話をしなかった。
俺の話も聞かず無理やりついてきたことを少し申し訳なく思い、気まずいまま駅まで到着した...とかでは全くなくて、ただただコイツが寝てただけだった。
到着しても起きないコイツを優しく叩き起こしてバスから降りた。矛盾とか知らないもん。
本当は置いてってやろうかと思ったが、何しろ通路側にコイツが寝てたせいで、コイツがどかないと降りれなかった。
太陽もすっかり西に傾き、太陽が少しまぶしい。
「お前、家までは付いてくるなよ。ちゃんと自分の家に帰れ。」
そう言って俺はアイツを置いて帰ろうとした時、
「……なあ、」
急にコイツは下を向き寂しげに俺を呼び止めた。
少し言い過ぎたかもしれない、そう思ったが、ここまで来たら俺だって引き下がれなかった。
「なんだよ、いい加減にうっとうしいぞ。中二病的発言も、俺に付きまとってくることも。」
だから俺はまた強く当たってしまった。
「今日一日、人間というものを見てきて一つ分かったことがある。」
何だよコイツまだそんなこと言って...
「やはり人間は醜くて貧弱で、魔族の我々から見れば本当に劣等種も良いところだ。でも、なぜか一緒にいて悪い気は全くしなかった。人間の世界には笑顔や幸せが溢れていた。だから、むしろ居心地はよかったんだ。」
何言ってんだよ、いいから帰れ。とはいえるような雰囲気では無いのは、コミュ障の俺でも分かった。そして何も言えなかった。それに、今まで陰キャで人を色メガネ見てきた俺にも共感できることだったから。
「だから…だから我は…、もっと人間のことが知りたい、そしてお前のことも、もっとよく知りたいんだ!お前のことを教えてくれ!」
彼女は俺の目の前まで小走りで近寄り、大きな物体二つを揺らしてきて、俺を見上げて、濁りのないきれいな瞳で、まっすぐ俺を見つめてきた。
やめろよ!勘違いされてもおかしくない言い方をするな!
でも...「わかったよ。家までは付いてきていいから。でもそこまでだ、それからはちゃんと家に帰るんだ。いいな?」
「うんっ!」嬉しそうに目を輝かせてそう返事した。
「ただし条件がある。」
「なんだ?」
「俺を犬呼ばわりするな、ちゃんと名前で呼べ。」
「なんだ、そんな事か。じゃあよろしくなっ!綸己!」
「っ…!?な、名前ってそういうことじゃなかったんだけど…。」
「じゃあ綸己も我のことリリスって呼べ!いつまでもお前って呼ばれるのうっとうしいから。」
コイツ話聞いてないわ。
「分かったよ、り、リリス。」
思わず恥ずかしすぎて横を向いてしまった。
だって女の子を名前で呼ぶのなんて生まれて初めてなんだもん!
恥ずかしいんだもん!
リリスはそんな俺に向かって満面の笑みで応える。
「じゃあ一緒に帰ろう!綸己!」
「やっぱりしばらくは犬でもいいかも!」
「何だよ綸己、恥ずかしがることないぞ!」
顔のあたりがすごく熱い。俺は夕焼けに照らされたせいだと自分に言い聞かせた。
それにしても本当に今日の夕陽はまぶしいな。
夕焼けの光が街中を、俺たちを赤く染めていき、ふたりの後ろの影は少しずつ短く小さくなっていった。
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