とても柔和な童話らしい優しい文体と語り口で、木が主人公という物語ですが何の抵抗もなく世界に入る事が出来ます。
林檎栽培が盛んな村で、一本だけ原種に近いのか酸っぱい実をつける主人公のリンゴの木。リンゴの木にはきつねのサンサ、からすのガラというお友達。
ただそこにいるしかできない彼の、ちょっとおせっかいなお友達との関係も微笑ましく、メルヘンな感じで和みます。
そんな酸っぱい実を、摘みに来る女の子が一人。
リンゴの木が彼女に持つ感情は、きっと「恋」。
ふんわりした空気感の物語でありながら、ドキドキハラハラとする場面と、人の気持ちについて考えさせられる部分があったりと、ページをめくる手が止まらないテンポの良さで、一気に読み切ってしまいます。
リンゴを摘みに来る女の子の心情は、木たちの側からはわからないため、読者も知る事ができません。
リンゴの木の、淡い恋心の結末をぜひ読んで知って欲しい、そんな作品です。