第31話

「もう、こうなったら失礼なこと聞いちゃおうかな。小黒さん、バツ1って?」

「あ、桃子さん?白状すると…そうなんです。失敗しましてね」


そこは、と桃子は焦ったが、老婆心満載の真澄は品定めをやめようとしない。


フィアンセを紹介するなら、もうちと、マシな所を選ぶべきなのに、いつもの安っぽい居酒屋の方が相手の本性がわかりやすいとか、今日の飲み会は彼女なりの目端の利いたセッティングだったのである。


トオル君はやっぱり、無反応でほうれん草バターを箸でつまんでいる。私は私で小黒、真澄の探り合いに押されて、今日はちびちび端っこに座らざるを得ない。

小黒さんはあの日、私にしたのと同じように、結婚生活から離婚に至った経緯を説明した。


ただし前の奥さんのことを冗談でも、「綺麗」だとか「魅力的」だとか誉め言葉は使わなかった。どちらかというとネガティブな言葉を発し強調していた。真澄は調子よく、合いの手を挟みながら、小黒のしゃべりに任せて、私の知らなかったことまで聞き出した。


「つまり、その人と離婚していなければ、今頃、本店の部長、専務、とにかくもっと偉くなっていた?というかんじ?」

「なにぶん、副頭取の娘でしたから。気をつかってました。でも出世については…さあ、どうでしょう」


そうか、やっぱりこの人、そういう人と結婚してたんだ、そうだよな。だって小黒さんだもの、女は誰だって好きになるよ。そうだよなぁ、私じゃ役不足だよ。小黒さんと出会って、きれいになろうとしたけど、まだまだきっと足りない。いろんなことが足りない。


「私は電力会社で役所みたいな職場だから、かってが違うんでしょうけど。小黒さんの実力ならハンディーも乗り越えて?」


そこで桃子は思わず、


「今、小黒さん、資産運用部で頑張っているのよ」

と機転を利かせた、つもりだった。


「またまた、話を大きくしないで、桃子さん」

「だって私の貯金もしっかり増えているし」

「あ、そこらへんはトオル君の出番でしょ、ほらアンタもなんか!」


「ボクは別に…」

「凄腕トレーダーって聞いてますよ。すごいなぁ。世間のあこがれじゃないですか。今度教えてくださいよ」


「あ、うん、、いや、はい…誰でもできますよ。でも普通の勤め人の方が楽しいと思います。僕みたいなのは世間ずれは…一度就職したこと、ありますけど、3日で辞めました」

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