第28話
それにしても世の中は、猫も杓子も投資、投資、だ。職場にいっても、クラブにいっても、友達の真澄の彼氏も。そんなにお金がありがたいのだろうか。
小黒さんの要望を胸に秘め、なんといっても彼の出世のためなのだから----有栖谷のおばさまを訪ねた。
これで5回目だった。毎回、毎回、美味しい料理とお酒を頂いている。そのたび知らない世界を堪能する。病院での最初の出会い、もうろくした、ただの金持ち婆さんかと思いきや、世間の荒波を潜り抜けた、教養ゆたかで優しい素敵な人生の先輩だった。
相談役として、週に1回は会社を訪ねるそうだが、出されたお茶請けに一口つけるだけですぐ帰るそうだ。本音はそれもそろそろやめたいというが、創業者一族、大株主だったから、会社は変に気を使って無理やり案件をもってくるとのこと。
「最近の若い人は車に興味がなくなって、運転免許をとらないからねぇ。ドライバーを探すのも一苦労なのよ」
業界のことなぞ、1ミリも知らないし、ペーパードライバーの桃子でも案外できそうな仕事かなと思ったりして。
おばさまは話し相手というけれど、私みたいな凡人と会話して何がおもしろいのだろう。それを聞いた時、おばさまは、押しの強い人間に囲まれるのに嫌気がさして、とかなんとかいっていたが、ようは自分みたいな凡人は敵対することのない安全パイ、ということなんだろうか。
まあ、否定も肯定もしない。私は確かに凡人だ。敵も作ったことがない。
でもね、もうすぐ小黒さんと一緒になるから、最高に幸せな凡人なのだよ。
小黒の事はこの前、話した。
おば様は、「アラ!」とびっくりしたような、意外な顔つきをしたが、すぐ、「おめでとう、何かお祝いあげなきゃね」といってくれた。
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