第27話

小黒と会うのは、10日ぶりだった。このところ出張で忙しく、加えて本店の会議が立て込んでいたのだそうだ。


その日は桃子の部屋だった。そこそこ上手くなった料理と何度も掃除機をかけた畳と、冷えたビールで乾杯をして、待ちきれなくなって小黒に飛びつき、ベッドの中で何度も唇を合わせた。小黒も桃子の気持ちを迎え入れるようにやさしく頬を手でなぞっていた。


「いつか話したと思うけど、真澄が彼氏と4人で会いたいっていうの」

「…ふん」

「トオル君ってほら、トレーダーやっている。小黒さんとも話が合うと思うわ」

「そうだね」


どことなく気乗りのしない返事だったが、いずれ一緒になるのだし、真澄くらいは紹介したい。ひとまず小黒の日程を聞いた。


「再来週か、1か月後くらいかな」


あとで真澄にメールすることにして、桃子はまた小黒の胸のうちに飛び込もうとした。


「相談があるんだけど…」


小黒の低い声を聴かずに、桃子は目を閉じて肩を寄せていった。


「君の知り合いに、資産をまかせてくれる人、いないかな」


小黒は桃子の髪をなでていたが、次ははっきりした声でいった。


「まかせる?」

「運用のこと」

「どうして?」

「そろそろ実績を上げて、本店に戻りたいからね。この年から上にいくには本店に呼ばれないといけないから」

「社長さんになるの?」

「まさか!銀行の場合、頭取ね。銀行って結構、学閥があるんだよ。僕のような私立大学出じゃ無理だし、いまの専務連中にもたいしてコネがない」


「でも私は出世より、一緒になって…」


小黒はなぜか笑い出した。


「そうだよ、頼むよ。一緒になるんだから」


小黒の笑いがちょい悔しかったが、焦った自分を悟られるのも嫌だったから、


「この前、話したおばあさん、どうかしら、有栖谷のおばさま」

と返した。


「例の運輸会社のオーナー?ぜひ、コネ作りたい」

「今度会った時、きいてみる」

「ありがとう、ぜひ頼むよ、奥様!」

「モー!」


桃子はこぶしで軽く小黒の胸を叩いた。

しかし結局、気持ちを握られているのは私の方、そう思うから、負け。

それ以上何もいわずに小黒の胸と合わせるように身体を寄せた。


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