第12話
「少額からはじめた方がいいとおもう。米国指数の積み立てが無難だよ。毎月積み立てで、そこをコアにして、あとのそうだね、20%枠の資金で個別株を買うといい。まあ誰でも知ってる有名な会社から伸び盛りまで、会社の規模にあわせて資金をいれるといいよ」
小黒は具体的なプランと株のティッカーシンボルをプリントして、桃子にみせた。実をいうと投資の話はしばらく消えていた。そんなことはどうでもよかった。彼との時間が桃子にとっては唯一だった。
出会って、3か月、今日になってようやく投資指南をうけることになったのだ。
「アプリで買えるからね。最初は僕がやるから、覚えて」
小黒はAY証券のアプリを押して、子気味よく注文を出した。
「アメリカは夜中に相場が動くけど、設定すれば予約注文ができる」
桃子は小黒の手元の動作を見ているようで、あまりみていなかった。横顔ばかりみていた。
「ほら」
桃子の視線を受けると小黒は優しく唇に触れてきた。
「ありがとう」
桃子は待ちきれずに小黒からスマホを取り上げ、導くようにその場で横になった。
外で食事の後、ここ3回ほど桃子のアパートで夜を重ねていた。
「愛してる」
小黒は桃子の瞳をみながら、ささやいた。
ずっとこの人といたい、もはや小黒なしでは桃子の生活は成り立たなかった。
「君がうちの銀行に預けた、500万、順調に増えてるよ。今、相場がいいからね、もちろん上下はあるから。手数料の3%をひいても、5%は含み益がついている」
「よかった、小黒さんさすがね」
小黒は銀行のアプリを開き、「総資産」の画面をタッチし、金額をみせた。
桃子は横になりながら、小黒に向かって寝がえりをうった。
「どんなお客さんがいるの」
「いろんな人がいるよ。年寄りが多いけどね。億円任せてくれる人もいるし。いずれは独立して、IFAっていうんだけど、資産管理のアドバイザーの仕事をやろうと思ってる」
「わたしみたいな人、いる?」
「いるよ、みんな将来が不安なんだろうね。少額でも運用して、将来の足しにしようと」
「少額なんだ、やっぱり私クラスだと」
「ごめん、ごめん、そんなこといってないよ。君の年齢で1000万、貯金がある人も珍しいから」
「小黒さん、お客さんたくさんいるんでしょうね」
「ああ、これでも東エリアでは最年少、支店長だからね」
「すごい、もっと預けちゃおうかな」
「いやいや、自分で運用した方が勉強になるから。慣れてきたら、うちからお金を引き上げて、全部自分で運用したほうがいいよ。手数料分、損するからね」
「私が途中でひきあげちゃったら、小黒さん、会社で点数下らない?」
「それは問題ないよ。解約の時もちゃっかり、手数料をとるからね」
「わかった。慣れるまで200万は自分で運用して、やっぱりあとの300万は小黒さんにお任せするわ。残り、貯金は200万、それは置いてと。来週、銀行に振り込むわ、よろしくね」
「ありがとうございます。精一杯、運用させていただきます」
「こちらこそ、よろしくお願いします、最年少、支店長さん」
そういえばマリが最近、寄り付かなくなった。餌を食べるとさっさとどこかへいってしまう。私の家で休むことがない。彼女も誰か良い人が見つかったのかな。それとも私に捨てられるとでも思っているのだろうか。スリスリもミャーも、音沙汰がない。
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