第10話

「半同棲?」

「そう、マンション借りてくれて、引っ越したの」

「家賃は?」

「もちろん、男持ち」

「いくらの」

「いくらだっていいじゃない」

真澄はいつもの居酒屋で、いつものレモン酎ハイを、氷をコロコロいわせながら、一気に飲んだ。

わたしも、といいかけて、週2ペースで会っている小黒のことを想い出してはまだ、「自慢」、するのは早いと留めた。

「本当に結婚するの?」

「おそらくね、でも、もう紙切れの契約はいいよ。そんなことにこだわったって仕方ないし。彼の生活スタイルだと自分のペースも乱れないし」

有名私立大学出、高収入の真澄は男に頼らずとも十分生きていけるのだが、私のようなおひとり様はわびし過ぎて耐えられないのだろう。

でも、言っとくけどね、私だって、一人じゃない。

「桃子さぁ、変わってない?なんか変わった?」

「何が?」

「だって、おしゃれしてるから」

ひがみも嫉妬も、天真爛漫な彼女には通じないし。優越感で私に男自慢をしていないのは重々わかっている。どちらかというと、彼女は私にも、モテ界隈に入ってほしいのだ。

「老け込むには早いからね」

「そうよ、その調子で良い男みつけなよ。なんならいまの彼氏にお金持ち紹介してもらおうか。桃子はコスメで、どんどん綺麗になる、絶対そう」

「ありがとう、でも私は一人がいいの」

小黒を好きになってから、いつもの、セリフは嘘になっていた。ただそれは心地よい、ウソだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る