掲げろ殿部! 響けホイッシリ!
小紫-こむらさきー
第二千回品評会 会場 日本
「高く衝き上げられた殿部から放たれた音色はブピピッピブリブリ……鼻腔の奥にツンと来てから、ゆっくりと広がる芳醇な香り、そして濁音の中に混じる半濁音の響き。殿部にある第二の唇が仄かに震えている様子がありありと伝わってくるようです……ううん! トレビアン! こちらの
壇上では、やや黒みがかった褐色の上等そうなスーツに身を包んだ青年がよく通る声で
見目麗しいその青年だが、スーツに着られているわけではない妙な貫禄を持っている。胸を張り、背筋を伸ばしているからか、それともこれだけの人々から注目をされているにも拘わらず物怖じ一つしていないところだろうか。
青年の横にある小さな舞台――ホイッシリゾーンでは、ホイッシリを披露し終わった恰幅の良い紳士が殿部を丸出しにしていて恍惚とした表情を浮かべている。
五年に一度ある
ウンダス文明とフグリス・ヌーブラテス文明の勃興の時代から世界で行われ始めた
匂いと音色の美しさを競うだけではなく、
この日のために私は体調も整え、昨日は繊維たっぷりの食事も済ませた。
ゴロゴロ元気よくイモを消化して居るであろう自分のお腹を優しく撫でて、私は自分の順番を待つ。
最高得点は先ほどのロシア代表ヘジルニコフ・マラマーン氏の5Oナラポイントだ。
見目麗しい青年が、ヘジルニコフ・マラマーン氏の腰をポンポンと優しく撫でると、観客達からも割れんばかりの拍手が響く。
こいつぁ強敵だ。
舞台から降りて、純白のブリーフを身につけたヘジルニコフ・マラマーン氏の表情は先ほどの恍惚とした物ではなく、どこか精悍さを感じるやりきった漢の顔をしていた。
青年の横で深々と一礼をして、ヘジルニコフ・マラマーン氏は舞台から降りる。
「では、次の選手、ホイッシリを披露してください」
綺麗なバリトンボイスが響き渡り、私の前にいたドイツ代表、フンバルト・ヴェンデル氏が舞台袖からゆっくりと舞台に出ていく。
どことなく緊張した面持ちのフンバルト・ヴェンデル氏は、息を深く吸い込み青年の横へ立つ。
僅かに手を震わせながら、フンバルト・ヴェンデル氏は純白のブリーフに指をかけた。ゆっくりとブリーフは膝下に下ろされ、パサリと儚げな音を立てて床へ落ちる。
フンバルト・ヴェンデル氏は、硝子細工にでも触れるように慎重な手つきで舞台に両手を乗せると、いっきに膝を持ち上げて舞台に乗せ観客達に向けて殿部を掲げた。
ぶるんと揺れる股間の逸物は、ドイツの名物、巨大フランクフルトを思わせる貫禄だ。しかし、
いきり立ったときの伸びしろには自信がある我が大和魂を宿らせた私の逸物も、普段の状態であればいささか迫力には負ける。
フンバルト・ヴェンデル氏の振り子のように揺れる逸物がゆっくりと垂直に垂れ下がると、ざわめいていた観客席も静まりかえる。
さあ、先ほど最高得点をたたき出したヘジルニコフ・マラマーン氏の後に、彼はどんな音色を響かせてくれるだろうか。
固唾を飲んで、観客もソムリエも、そして選手達も見守る中、両手を殿部の谷閒を開くように添えてフンバルト・ヴェンデル氏の第二の唇は控えめな第一声を奏で始めた。
――プッスゥウウーーーーーープッピピピピ
長い長い天使の溜息のような微かな音色から軽快なスタッカートの聴いたホイッシリが響く。
ヘジルニコフ・マラマーン氏のホイッシリが動のホイッシリとすれば、フンバルト・ヴェンデル氏のホイッシリは、静のホイッシリということか。
長い静寂の後、誰の者かわからない呻き声が聞こえた。
――ッスーーーーーービャッビュ……プゥーーーーー
「出しやがったぞ!」
第二の産声の後、誰かが叫んだ。
目を閉じ、音色と香りを審査していたはずのホイッシリソムリエもその声を聞いたのか、匂いと音に異変を感じたのかはわからないがすぐに目を開いてフンバルト・ヴェンデル氏の殿部へ顔を向けた。
彼の殿部にある谷閒を開くように添えられていた両手は、さきほどとは逆で谷閒を深く閉ざすように殿部の両サイドをキツく外側から押さえ込んでいた。
ホイッシリソムリエが「第二の唇を見せたまえ!」と細身の見目麗しい見た目とはそぐわないドスの利いた声を出しているが、フンバルト・ヴェンデル氏は母国語で頑なに拒んでいるようだった。
しばらくホイッシリソムリエとフンバルト・ヴェンデル氏の殿部の谷閒を巡る攻防が繰り広げられていたが、舞台に駆けつけてきた屈強な数人の男達によってフンバルト・ヴェンデル氏の谷閒はあっけなく暴かれた。
両腕を殿部のほっぺから引き剥がされたフンバルト・ヴェンデル氏は、行き場の失った両手で自分の目を覆うようにして肩を僅かに震わせている。
立ち上がって逃げないのは、最後に残った矜持がそうさせるのだろうか。
「殿部の谷閒に湿り気を確認したため、フンバルト・ヴェンデル氏は失格となります」
冷たい判ケツが言い渡されたと同時に、殿部を高々と掲げていたフンバルト・ヴェンデル氏はそのままの姿勢で大声を上げて泣き始めた。
ざわつく観客席、舞台から降りようとしないフンバルト・ヴェンデル氏……ホイッシリソムリエは肩を竦めて、体を桜色に染めている大男の殿部をポンと叩く。
それでも動こうとしないフンバルト・ヴェンデル氏は、先ほど駆けつけてきた屈強な男達に純白のブリーフをはかせてもらうことなく、舞台から運び出された。
神聖なホイッシリ品評会では、具はもちろんのこと、汁を出すのも御法度である。
尻の谷閒を閉じて誤魔化そうが、音色と香り以外のものを出してしまうのは即失格となる。
フンバルト・ヴェンデル氏……とても良い静のホイッシリだっただけに残念だ。あのまま湿り気のあるホイッシリを出さなければ、ヘジルニコフ・マラマーン氏の記録も塗り替えていたかもしれないのに。
いや、去ったもののことを考えても仕方ない。大和男児なれば、志半ばで散ってしまったフンバルト・ヴェンデル氏の分まで懸命に踏ん張るとしようではないか。
舞台を消毒するというアナウンスが流れ、観客席はにぎやかさを取り戻す。
私の腹もゴロゴロと軽快な音を立て始める。
頼むぞ私の第二の唇。ヘジルニコフ・マラマーン氏に勝つための勝利のファンファーレを奏でてくれ。
「清掃と消毒が終了しました。それでは、日本代表、
私の名が呼ばれる。
心臓の音と気持ちが昂ぶる。
背筋を伸ばし、私は壇上へ上がった。スポットライトが向けられて視界が白む。
チリチリと肌の表面が焼けるような心地よい感覚に襲われながら、純白のブリーフを脱ぎ去った私は舞台に両手を突き、殿部を高く掲げた。
噴火じゃなくていい。煙を上げるんだ。日本というこの地で開催されるホイッシリ品評会……現地の侍魂をぶつけてやるんだ。届けウンダス文明とフグリス・ヌーブラテス文明まで……。古代の神々よ……私の音色に祝福を……。
息を深く吸って止める。
そして、口から息をゆっくりと吐き出す代わりに、私は第二の唇からホイッシリを捻り出す。
――プゥーーーーーーーーープォプォッスーーーーーブブッブブーーブンバ……ボン!
渾身のホイッシリだった。
ホイッシリソムリエの判定を待たずに割れんばかりの拍手が会場を包む。
空気が揺れて、私の心ともない大きさの逸物が僅かに揺れた。
「長い長い途切れることのない静の音から、躍動感のある濁音への階段……そして最後に具が出そうなほど勢いのある破裂音! 濃厚な香りには強い刺激臭の中にもコクと深みが感じられます。これは……ニラの香りでしょうか? ニラと肉、そして揚げ物の油っぽい香りというバランスの良い香り……これは史上最高のホイッシリです! 6Oナラポイント!」
やった……。私はやりきったぞ。
なんともいえぬ心地よさに浸っていると、ホイッシリソムリエによって私の殿部が優しく叩かれる。
すがすがしい気持ちになりながら、私は純白のブリーフを身に付け、舞台を後にした。
掲げろ殿部! 響けホイッシリ! 小紫-こむらさきー @violetsnake206
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