隣人
桜海暁月
第1話
『今日の給食ってなんだっけ?』
彼は私のノートに殴り書く。板書と要点をまとめたこのノートに2Bの鉛筆で書かれたそれは、私の集中力を霧散させるには十分であった。
苛つきもある。しかしまだ子供っぽい彼に怒ったところで何も生まれないのは知っている。私はペンポーチから付箋を手に取り、今日の献立を書き出してみた。
『ごはん、牛乳、揚げぎょうざ、どさんこ汁、メロン』
書き終わって彼のノートに貼りつけると、彼はウキウキした表情になった。昨日はシーザーサラダとトマトのせいで死んだ魚の様な顔になっていたが、今日の献立は嫌いなものがないらしい。
四時間目も終わり、給食当番は準備を始める。私はその一員でどさんこ汁を盛る係になった。お椀を二つ持って私の前に現れた彼は、目線と仕草でなんとか「多く盛って」と言っている様だった。私は仕方なく、片方を少しだけ多めに盛ってやった。
準備が終わり「いただきます」を合唱する。何を血迷ったのか私のお盆には大盛りのどさんこ汁がひとつ。そして私の分だった揚げ餃子が彼に食べられてしまっていたのだ。
「私の餃子はどうしたの?」
「女子ってよくニンニク臭いの嫌って言うじゃん」
「どさんこ汁たくさん食べたい訳じゃないの?」
「俺野菜嫌いなの知ってるでしょ」
「じゃあ、メロン貰ってもいいよね?」
私は溜まっていた鬱憤が弾けてしまったようだ。意地悪く苦笑いした私は、本当は大好きなメロンにかぶりついた。
隣人 桜海暁月 @ciellease
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