第14話 クロをかばったハッピーの絶叫



 

 とそこへ、また別のトラックがやって来た。🚚

 手慣れたハンドルさばきで中庭に入ると、派手なブレーキ音で止まる。

 荷台の頑丈な鉄檻のなかで、怯えきった4つの目が恐怖に竦んでいる。


 運転席から青いツナギ服の筋肉質の青年が降りて来て、軽業師のような身ごなしで荷台へ飛び乗ると、手に握った太いこん棒で、いきなりガンガン檻をたたき出した。


 それぞれの檻の隅のほうに身を寄せ合っている2匹の犬たちに「こんちくしょう! さっさと出て来やがれってんだ!」ゆえなき憎しみのこもった罵声を浴びせかける。


 檻のなかでふるえているのは、無惨にあばら骨が浮き出たクロとハッピーだった。

 丸くふくらんだクロのお腹が、いやでも人目を引く。なんと痛々しい……。(;O;)


 いくら叱りつけても出て来ようとしない厄介な犬たちに腹を立てた青年は、ナイフのような目を鋭くとがらせ、クロのお腹を目がけ、ぐいっと、こん棒を突き入れた。

 

 ――ウウッ!!!!

 

 呻り声をあげて、ハッピーが空を跳ぶ。

「いててっ、やろう、やりやがったな!」

 青年は思いきり、こん棒をふりおろす。

 

 ――ウギャ~!

   ギャイン!

 

 この世のものとも思えない大絶叫がひびいた。

 クロの目から透明なしずくがしたたり落ちる。


 青年の怒りは、執拗にハッピーに向けられた。

 悲鳴は少しずつ小さく、か細くなっていった。


「ちっ、余計な世話をやかせやがって……」

 青いツナギの青年は動かなくなったハッピーを力まかせに蹴り上げておいてから、擦りきれた首輪に針金を引っかけて、荒々しくガス室のほうへ引きずって行った。

 

      *

 

 そして、もどって来た。

 今度こそ、クロの番だ。


 クロはぎゅっと目を閉じる。

 とそのとき、少年が叫んだ。

「待って! この子のお腹には赤ちゃんがいるんだ」


 ツナギ服の青年は荒い息をしながら仁王立ちになって少年をにらみつけていたが、ふいに肩の力を抜くと、ついと目を逸らし、ぽいっとばかりにこん棒を投げ捨てた。

 

 少年が荷台の檻にやさしく手招きしても、クロは針金のように細く固くした尻尾を両脚のあいだに深く巻きこんだまま、歯の根が合わないほどガタガタふるえていた。


 そこにいる、だれもが泣いていた。(ノД`)・゜・。


 動物愛護団体のメンバーはもちろんのこと、仕事とはいえ罪もない動物たちを処分しなければならない保健所の職員たち……タオルを首に巻いた白髪の課長も、蒼白な顔を伏せた若い職員も、臨時雇いの老職員も、みんな声を忍ばせて泣いていた。💦


 驚いたことには、ついいましがた、強い憎しみの表情でハッピーをたたきのめしたツナギの青年までが、おいおいと声を放ち、はげしく泣きじゃくっているのだった。


 本当はだれも、いたいけない動物を処分などしたくないのだった。(´;ω;`)ウゥゥ





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