第13話 商店のトラックで捨てられに来た犬



 

 遠くのほうから、かすかな車のエンジン音が近づいて来る。🚚

 1台のトラックが国道からこちらに向かって、猛スピードで走って来る。

 舗装道路が途切れると、トラックは濛々たる砂埃もろとも移動して来た。


 近づいてみると、黄緑色の車体に白い文字で「はやしべ商店」と読めた。

 ここから3キロほど北方に当たる、となり町の大きな商店の名称である。


 運転席のドアが開いて、黒いアノラックを着た大男が降りて来る。

 そのまま荷台にまわると、1匹の茶色い雑種犬を引きずりおろす。

 赤いリードごと職員に手わたすと、さっさと運転席に乗りこんだ。


 たった……たったそれだけだった。(ノД`)・゜・。

 今生の別れは、ごく事務的に終了しようとしていた。


 自分の店に帰り着くころ、男はもう犬のことを忘れているだろう。

 いやいや、その前に、帰り道では口笛を吹いているかもしれない。

 もしも、だが、多少ちくりと胸のあたりに痛みが走ったとしても、

 

 ――こっちにも都合がある。ああするより仕方がなかったんだ。

 

 勝手な理由で自分を納得させ、一刻も早く忘れようとするだろう。

 この施設へ犬や猫を捨てにやって来る人間の、大半がそうだった。

 

      *

 

 とそのとき、赤い半コートの女性がとつぜん駆け出した。🏃

 トラックの運転席に取りすがり、悲鳴のような叫びを噴き上げる。


「せめて、せめて、自分でガス室へ連れて行かれたらどうですか!」


 ドアにしがみついた女性を乱暴にふりきってトラックが走り去ってしまうと、あとには、くりくりお茶目な表情をしたファニーフェイスの中型犬が取り残された。🐶


 たったいま飼い主に置き去りにされたばかりだというのに、犬は生来のお人(犬)よしなのか、自分を取り囲む人たちを見上げて、うれしそうに尻尾をふっている。


「病気になってお金がかかるから、もういらないなんて、そんなの勝手すぎるよ!」


 真っ赤な顔でこぶしを握っていた少年がしゃがみこみ、犬の頭をそっと撫でる。

 犬は無邪気な尻尾を精いっぱいふって、少年の膝に大喜びでとびついていった。





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