第9話 元猟犬・ハッピーとの出会い



 

 クロは当てもなく歩きつづけていた。(;_;)/~~~

 背中に積った雪が凍り、毛という毛が逆立って、まるでハリネズミのようだ。


 もう何日も食べ物を口にしていなかった。🥐🍖🐟🍚

 4本の脚の感覚はとうに失われ、大地を踏んでいるのかどうかもわからない。


 山はどこもかしこも真っ白で、し~んと静まり返っている。

 この世から音という音がすべて消え失せたかのようだった。


      🍃

 

 あれからずっと、クロはひとりぼっちだった。

 

 ――クィ~ン、クィ~ン、クィ~ン。

   おとうさ~ん、おかあさ~ん。

 

 クロの鳴き声は、虚しく雪山に吸いこまれていくばかり。

 

      🌠


 夜は洞くつで眠った。


 暗い穴のなかで丸まりながら、クロは楽しかったころの夢を見ていた。

 夢のなかでクロは、孝夫と洋子に甘え、ふたりの頬をペロペロ舐めた。


 目覚めれば、いっそうさびしさが募ったが、夢だけが生きている証しだった。

 楽しい夢が一転、ふたりが倒れた場面に変わると、自分の悲鳴で飛び起きた。

 

      🌸

 

 山にもようやく遅い春がやって来た。

 クロは、どうやら生き延びたようだ。

 里へおりて食べ物を探すことも覚え、野良犬のたくましさも身につけていた。

 

 おだやかに晴れ渡った青空に、真綿のような雲が浮かぶ午後のことだった。🌞


 満開のヤマブキの花の向こうに、チラチラ動くものがあった。

 向こうも立ち止まって、こちらをうかがっている気配がする。


 犬……だった。🐕


 白地に黒のまだらもよう、脚がすらりと長くて、小さい頭の両わきから、大きくてしなやかな耳を垂らした、すばらしくハンサムな犬がヤマブキの花から顔を見せた。


 2匹は、しばらく見つめ合っていた。

 どちらからともなく歩み寄って行く。


 クロの鼻孔はかぐわしい匂いで満たされ、その犬に身体をすり寄せたくなった。

 相手も同じ気持ちと見え、短い尻尾をふり、素直なよろこびをあらわしている。


 犬はハッピーという名で、もとはハンターの猟犬だったが、鹿を追っているとき、あやまって怪我を負ってしまい、そのまま山中に置き去りにされたのだとか……。


 クロとハッピーは、その日から夫婦として暮らし始めた。

 それまでの孤独を埋めようと、夫婦はいつも一緒だった。





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