第6話 夫婦のワンクッションの役目も


 

 朝、洋子が目覚めると、待ちかねたようにクロ坊ちゃんも起きて来る。

 そして、孝夫のベッドに駆け寄り「ワンッ!」と鳴いて散歩をせがむ。

 朝に弱い孝夫が、ぐずぐずしていると、前足でトントンとノックする。


 それでもだめと見ると、つぎはお得意の奇襲作戦に打って出るのがルーティンで、顔中をペロペロ舐めまくるクロに、孝夫はついに悲鳴をあげて降参するのだった。


 キッチンに立つ洋子の足もとに、ソファで新聞を読む孝夫の肩ごしに、リビングでくつろぐ夫婦のあいだに、田中家の風景にはいつもどこにもクロのすがたがあった。

 

      *

 

 賢いクロは、人の言葉を解した。


 ことに自分の名前には耳ざとく、「クロ」という言葉が出ると、とたんにキラキラ目を輝かせ、「なあに? ここにいますけど」というように、耳をピクピクさせる。


 それから……孝夫も洋子も、言いにくいことはクロに言う習慣ができた。(笑)


「ねえ、クロや。おとうさん、お酒を少し控え目にしてくれたらいいんだけどねえ」

「……………………(・´з`・)🍶」


「クロや。ここだけの話だけど、かあさん、このごろ少し太めになって来たよなあ」

「……………………(´▽`*)🍰」

 

 1日の終わり、クロは夕飯が済むと、さっさと玄関先のベッドにもぐりこむ。

 毛布から顔だけのぞかせると、ふうっとさも満足げなため息をつくのだった。

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