第2話 河原に捨てられていた仔犬



 3月も半ばを過ぎ、北国にも遅い春のたよりが聞こえ始めるころだった。

 冬枯れの河原に、あたりの枯れ草と同じ色の頭陀袋ずだぶくろが放り出されている。


 ふくろは、それ自体がひとつの生きものであるかのように、あっちをつっぱらせ、こっちを出っ張らせしながら、セピア色の冬景色のなかに、無造作に転がっている。


 川沿いの道を散歩していた初老の夫婦が、どちらからともなく河原に目をやった。


「あら。あなた、あれ……」(゜.゜)

「おう。……なんだろうな」(*'ω'*)


 立ち枯れた草原が、そこだけ人工的になぎ倒されている。

 冷たい風の音に混じり、弱々しい鳴き声が聞こえて来る。


 顔を見合わせた夫婦は、急いで土手を駆けおりて、枯れ草に分け入って行った。


 いく重にもきつく結ばれていた紐をほどいて、ほこりくさい頭陀袋のなかを覗いてみると、真っ黒で、丸くて、とてつもなく小さなものが、かすかにうごめいている。


 つるんとした頭をむやみやたらに振り立てながら、

 

 ――ミュー、ミュー、ミュー。


 風の子どものように鳴いているのは、仔犬だった。

 生後まだ間もないらしく、かたく目を閉じている。


 よく見ると、仔犬の足はなにかを踏みつけている。

 重なり合い、ぴくりとも動かない数匹の仔犬たち。

 

 「なんと酷いことを……」

 「いたいけない命を……」


 老夫婦の頬は非情な人間への怒りにふるえていた。


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