十一

「やれやれ、困りましたなー。勝手に屋敷に押し入った上に、左道を使って乱暴を働くとは。これは弾正台に訴え出ねばなりませんな」

 信太は押さえつけられた広足を見下ろしてため息をついた。

「え?何!?訴える!?なんでまし達狐に訴えられないといけないのよ!」

「狐?典薬頭殿は面白いことをおっしゃいますな。どこに証拠が?」

「証拠!?それを今から暴くわよ!」

 言い終わると同時に、広足の身体がまるでフラッシュでも焚かれたかのようにカッと眩しく光った。

「!?」

「雷が落ちたのか!?」

 男達は動揺して思わず広足から手を放す。

「どけぃ!」

 広足は男達をはねのけ、信太に向かって襲い掛かった。

「!」

 ギンッ!

 手で目を庇って光を防いでいた信太は、広足の動きに気づいて素早く両腰の大刀を抜き、二本の刃で広足の横刀を受け止めた。

 広足が突撃した衝撃で、二人とも外に転がり出る。

「外に出たならこっちのもの!」

「どうですかな!?」

 広足が横刀を構えると、炎が刀身に纏わりつく。

「化けていられない位に消耗させてやる!」

 信太に向かって横刀を振るうと、炎は蛇のようにうねりながら信太に向かって飛んでいった。

「!?」

 信太が大刀を振り上げると、地面から砂塵が舞い上がって炎を打ち消した。

「鬼道を操るのか!」

 二人とも声をそろえて叫ぶ。

 広足と信太は相手に術を使う隙を与えないよう火花を散らして激しく打ち合うが、体格に勝る信太が徐々に広足を圧倒していく。

「得意の呪符をお使いになった方が効果的では?」

 広足を板塀に追い詰めた信太がにやりと笑う。

「何ぃっ!?呪符ぅ!いましに使う呪符などないわ、勿体ない!」

 広足は毒づきながらも何とか横刀で二本の刃を受け止めて踏ん張るが、力負けする広足の顔に刃が迫る。

「……仕方がない!」

 広足は自分の右足を信太の左臑に押し当てた。

「!?」

 ドゴッ!!

 轟音と共に爆炎が吹きあがる。

 広足は爆炎が生じた衝撃で板塀ごと隣の敷地に吹き飛ばされる。

 炎に包まれた信太も広足とは反対方向に吹き飛ばされ、地面に転がった。

 しかし、地面から再び砂塵が舞い上がり、燃える体を覆いつくす。

 砂をかけられたことによって火は消え、信太は荒い息で起き上がった。

「……!!まずい、隣は!」

 大刀を一口だけ手に取ると、隣の敷地に足を踏み入れる。

「!?」

 信太が目を剥く。

 なんとか起き上がった広足の向こうで、皇子と房前に化けた玉藻が剣戟を繰り広げていた。

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