第32話

 ティンクルイーターとの戦いが終わり、各自負傷者の手当てや壊れた機体の回収に追われていた。


 最終的に全ての後処理が終わって古代施設に帰ってきた頃には、すっかり夜が更けていた。


 ユニによればこのアテームの星の寿命はだいぶ縮まったものの、完全な崩壊を起こすまで数千万年かかるらしく、ひとまずは安全な状態になったらしい。


 それにアテームには巨大なコア燃料搬入装置があるため、場合によっては重力圏に捕らえたすい星などを取り込めばもっと伸びるそうなので、100年も生きられないちっぽけなコウジたちには関係のない話だった。


 またモーダンとタマヨの処遇なのだが、モーダンの方は独りで牢屋に戻り、タマヨの方は戻らんぞとばかりに占領した個室でいびきをかいていた。


「モーダンはともかく、タマヨはどうします?」


 コウジがジュエルに対応を求めると、特に困ったそぶりもなく言った。


「タマヨとは実質協力関係だ。無碍に扱うわけにはいくまい。どこか通信の届く宙域で部下の迎えでも呼べばいいだろう。それよりも、私はモーダンの方をどうするか迷っている」


「裏切り者を簡単に許しては他の船員たちの示しになりません。モーダン自身はこれ以上敵対する様子もないので、ここは追放という形が適当なのでは?」


「……そうだな。その方向で行こう」


 ジュエルは簡潔に決定を下すと、その日は遅いので解散となった。


 次の日はエンジニアたちが忙しく働く番だった。


 なにせティンクルイーターとの連日の戦いで修理の必要なエグゾスレイヴは手が余るほどあるのだ。


「どいつもこいつも乱暴に機体を扱いおって! こちらの苦労を考えてみろ!」


 イヴァは怒鳴り散らしながらも部下に次々と指示を飛ばし、機体は着実に直されていった。


 さて、残る問題はコウジたちの人類圏への帰還方法だ。


「艦隊は全滅してしまったようですが、どうやって帰ればいいのでしょうか?」


 皆の疑問を代表してコウジがユニに問うと、恐ろしい答えが返ってきた。


「そんなの簡単じゃ。惑星ごとジャンプすればいいじゃろ」


「……えっ?」


「すでに準備はしておる。完了次第ジャンプするのじゃよ」


「ちょっと、待ってください!」


 コウジたちは慌てる。それもそうだ。惑星単位のジャンプとなれば周囲への影響は想像がつかない。特にジャンプ地点を誤ればどんな未曽有の大災害が起きるか分かったものではないからだ。


「重力波や空間の歪みは――それよりもそもそも安全なんですか!?」


「その点は天才AIのあたいじゃ。問題なかろうて。しかしぐずぐずしていていいのかえ?」


「な、なんですか?」


「ジャンプまで後5秒なのじゃが? 反対がなさそうなら構わんかのう」


「ええええええ!?」


 コウジたちは何らアクションを取る暇もなく、アテームは白いコクーン状の光に包まれた。


 そしてジャンプの後に残されたのは衛星群と艦隊の瓦礫、それから幾星霜(いくせいそう)もの星の輝きだけだった。

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異世界惑星救済オペレーション~社畜が始める英雄譚~ 砂鳥 二彦 @futadori

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