第79章 火星の小さな守護神⑩

「恵吾、どこにいるの? お願い返事をして!」

 アリーナは胸の中に、悲痛な叫び声をあげた。


 絶対零度に意識を奪われそうになりながらもアリーナは眼を懸命に凝らし、宮島を探し続けた。だが聞こえてくるのは、戦闘機がギシギシと凍り付いていく軋む音だけだった。焦りが募った。このまま探せないまま、自分も凍ってしまうのか?


 それから少しして、両翼のない戦闘機が見えてきた。その上に人の形が。


「恵吾!!」

 アリーナは機をさらに急降下させ、戦闘機の側に近づいた。


 宮島は戦闘機のもっとも余熱が残るエンジン部分の上で、うずくまるようにして背中を丸めていた。おそらくは、少しでも暖を確保しようとしたのだろう。


「恵吾!」

 呼びかけに、宮島は応えなかった。


 アリーナは急いで機体を横付けすると、傍に駆け寄った。宮島の体はまるで氷の彫像のように、ひどく冷たかった。


「恵吾! わたしよ、アリーナよ。眼を開けて!」

 アリーナはいっそう凍えてきた口をどうにか開け、声を絞り出すと、すぐさま強く抱きしめた。


「お願い、死なないで」

 声を振り絞り、自分の体と一体となるよう、強く抱きしめた。


 そして、自分の全エネルギーを使って体温を高め、宮島の体を温め続けた。


 あなたを絶対に、死なせはしない。だがそれは、自分の命との引き替えだった。全てのエネルギーを使い果たしたとき、それは自分の死を意味していた。

 間違いなく、そうなることを悟っていた。


 あなたが助かるなら、それでいいと。


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