第79章 火星の小さな守護神⑧

 ゾルダーの首無しの巨体は、泥で造った黒い氷の像のようになっていた。強風が吹いてきたら確実に倒れるだろう。だが、宮島が出てくる気配はなかった。無事であれば、巨大ホールのように開いた首から脱出できるはずだ。


「み、宮島さん……。恵吾~!!」

 アリーナは声を張り上げ、首の中に飛び込んだ。


「みんな! あの体が倒れないよう、風下から押さえろ!」


 ゲバラは声を飛ばすと風下側の胴体に戦闘機を飛ばし、巨体が倒れないよう機首を押し込んだ。他の戦闘機も続いた。だが強風が吹いたら支えきれそうもない超ド級の重さだ。火星の重力が幸いした。ここが地球なら支えきれずに、すぐに倒れている。


「アリーナ急げ! そう長くはもたない」

 ゲバラは無線機に声を飛ばした。


 アリーナは返事をしなかった。返事をする余裕などなかった。いまは、宮島を救出することで頭は一杯だった。突っ込んだ体内は全てを凍り付かせてしまう想像を絶する極寒の世界だ。少しでも操縦をミスすれば、絶対零度の餌食になってしまう。

 いやミスをしなくても、戦闘機は凍り付きそうだ。計器が狂い始めてきた。





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