第79章 火星の小さな守護神⑥

 俺の震えはますます強くなった。顎をカクカクと震わせながら必死に耐えた。宇宙服を剥ぎ取られ、まるで全裸で極寒の氷水にでも沈められているかのようだ。これが絶対零度というものか。


「残念だが、あなたを救うことはできない。ここで死ぬことになる」

 一体残った球が喋ってきた。


「ああ、わ、わかっている。こ、この怪物は、俺の大切な息子を、殺した。む、息子の仇さえ取れれば、そ、それで十分だ」

 俺はガタガタと震える口で応じた。


「そうか」

 球はそれから一言も喋らず、俺の最後を見届けるつもりのように見えた。


 あまりの寒さに、意識が朦朧としてきた。どうやら、俺の悪運も尽きたようだ。


 恵美、すまん。幸せに、暮らしてくれ。


 死んだら、竜司に会えるかな?


 無神論者の俺は、叶わぬ願いだとわかっていても、心に祈った。


 竜司……。


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