第79章 火星の小さな守護神⑤

 俺は30個の球に、瞳を向けた。


「それなら頼む、手助けしてくれ。この怪物を倒すのを手伝ってほしい」

 心で手を合わせて拝むように、頼み込んだ。


「いや、おまえたち人間は、この怪物に滅ぼされるがよい。怪物はおまえたちを殺したら火星を離れる。火星は元の静かな星になる」

 俺を突き放すように、冷たく言い放ってきた。


 もっとも絶対零度の連中なので、冷たいのは当たり前だが。まったく予想外の言葉に、俺の期待は一気にしぼんだ。だが、ここで諦めるわけにはいかない。この球たちだけが、頼みの綱だ。いや綱ではなく、球だが。俺にもタマがある、ある意味、兄弟? だ。おい、意味不明な妄想をしている場合ではない。俺は妄想頭を振った。


「確かに、俺たちが全滅したら、元の静かな火星になるだろう。だが、それは一時的だ。この火星には、もうすぐ巨大彗星が衝突する。そうなったら、火星は完全に破壊される。俺はそれを防ぐためにここにきた」

 翻意させようと声を返した。


「巨大彗星が衝突?」

「ああそうだ。頼む、手を貸してくれ。この怪物を倒さないと、彗星の衝突は防げない」

 必死に説得を続けた。


 その言葉に、返答がなくなった。助かりたいがための嘘を吐いているのか、言っているのが真実なのか、それを確かめようとしているのか? 脳みそに、ひそひそ話が聞こえているような妙な感覚を感じた。


「わかった。おまえたちを助けよう」

 答えると、周りの球が昆虫のように、もぞもぞと動き出した。それから一斉にはじけるように機内から飛び出していくと、分裂を始めた。


 30個が60個に、60個が120個にと、まるでウィルスの増殖分裂のように頭数をどんどん増やしていった。そして周りは絶対零度の物質だらけになった。ものすごい数だ。おそらく数千個はあるだろう。


 すると高温だった周りの温度が急激に下がりだし、今度は凍えるような寒さになった。マイナス200度に耐えられる宇宙服も役に立たない。あまりの寒さに耐えきれず、俺は体をガタガタと震わせた。これでは、俺も死んじまいそうだ。



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