第79章 火星の小さな守護神④

 絶対零度の予想以上の効果に、希望の光を見出した俺は座席を離れて、まだ球が残っていないか、急いで後背部に向かった。


「あった。これを使えば、ここから脱出できるかもしれない」

 俺は思わず独り言をあげた。


 ミサイルに装着できずに置いてあった絶対零度弾が、全部残っていた。これを池に投げ込めば、周りが凍るだろう。30個の弾をかき集めようとした、その時だった。


「我々は火星を守るために誕生した」と、声が聞こえてきた。ように感じた。

死ぬ前に、幻聴が起きたのか? いや、確かに聞こえた。


 だが、ここには俺しかいない。声の主は、いったい、どこから? 俺は、30個の球の一つに瞳を向けた。まさか? いや、そんなことは、ありえない。


「我々は火星を守るために誕生した」

 すると同じ言葉が返ってきた。


 ありえないが、間違いない。喋ってきたのは、絶対零度の球だった。フォボスでは何も反応はなかったのに、球は、意思を持っていた。


 宇宙には、やはり俺たち人間の常識は通じないということか。

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