第73章 まだ死ぬわけにはいかねえ⑦
俺は眼玉を左右に動かし、ファーム内を見渡した。撃った犯人を探した。仕返しをするためにだ。いや礼を言うためだ。だが、彼女は見当たらなかった。
「アリーナは?」
見つからないので、即座に訊いた。
「アリーナさんは、戦場に向かいました」
レオニードの言葉に、不安がどっと押し寄せてきた。
戦力が落ちた防衛隊では、勝ち目はゼロに等しい。勝利は絶望的な状況だ。自ら業火の中に飛び込むようなものだ。だがそれでも火星の人々のためにも戦わなければならない。40万人の命がかかっている。
「マルコフにつないでくれ」
せかすように頼んだ。
「マルコフさんに?」
レオニードが顔を覗くように訊いてきた。
「ああ、そうだ。急いで連絡してくれ」
念を押すように催促した。
「わかりました」
そう言うと、レオニードは本部に連絡を入れた。
俺は窓に顔を向け、瞳を外に向けた。もうじき戦闘が始まる頃だ。ここで指をくわえて戦況を見ているわけにはいかない。
「宮島さん、マルコフさんです」
レオニードがペン型の通信機を渡してきた。
「マルコフさんか、俺だ、宮島だ。例の開発中の新型戦闘機は飛べそうか? それを俺に使わせてくれ。いや胸は大丈夫だ。これぐらいの傷なら、問題ない」
俺は気丈な声で言葉を返した。
「気遣ってくれるのはありがたいが、いまはのんびりと傷が癒えるまで養生などしている場合ではない。この戦いは、火星の命運がかかっている」
傷を心配するマルコフに気丈な声で答えた。
(わかりました。すぐに出発できるよう準備させます)
マルコフの声がレオニードにも届いた。
「宮島さん、その傷では」
「心配するな。無理なら、温泉にでも浸かるさ」
少しよろけるように立ち上がった俺は、元気な顔を振りまいた。
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