第71章 ザイオンの逆襲⑬

 ザイオンの動きに注視しながら、俺は緊張のあまり生唾を呑み込んだ。


「逃げ足の速い奴だ。だが、もう逃げられはしない」

 立ち上がったザイオンが見下すように吠えてきた。


 吠えただけで、すぐには襲い掛かってこなかった。どうやらじっくり料理でもしようと考えているのか、俺の出方を待っているかのようだった。そうなら俺にとっても好都合だ。なにせ衣服内の酸素が10%を切っている。このままでは黙っていても酸欠で確実に死んでしまう。その間に、すぐさまヘルメットを外した。新鮮な酸素が鼻と口からどっと体内に入ってきた。地球の空気とは違うが、味わうように胸いっぱいに吸い込んだ。


「驚いた。逃げ足の速さからガーピスの部下だと思ったら、人間だったのか」

 ザイオンが言葉と同じように、驚いたという顔で声を飛ばしてきた。


 どうやらザイオンの赤い眼には、即座に相手を識別する特殊な機能があるようだ。


「ああそうだ。俺は人間だ」

 威圧するザイオンに負けないよう強い声を投げ返した。


「そうか、おまえ、人間の突然変異、変態か? 」


 は~い、俺変態で~す。そんなことを言うわけねえだろうが。おまえ、言葉の使い方が違うぞ! 俺は警戒の眼を向けながら、胸の内で非難の声を飛ばした。

 いや内心は少し、ドキッとしていた。一応、心当たりがあるからだ。中身は内緒だが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る